第15話:アストレア1

「私達の世界の種族は、大まかに分けると、人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族、妖精族の六つの種族から構成されています。それらを更に細分化すると、人族は、白人種と褐色種に、獣人は、身体の一部に獣の特徴を残す亜人種と、獣の頭と人の身体を持つ獣頭人種に分けられます。一般的にエルフ族と言えば、ライトエルフを指しますが、かつてはダークエルフという種も存在していました。かなり長命なエルフに似た外見を持つ者をハイエルフと呼びますが、厳密に言えば彼らはエルフ種とは異なります。半神という表現が適切かもしれません。精霊神様に言わせると、簡単に説明すれば、大昔に森精霊の力を取り込んだ人族が進化してエルフとなり、大地の精霊の力を取り込んだ人族がドワーフの祖となったということらしいです。」


「えっ?そうなの?だったら、ドワーフもエルフも元は人間だったの?」


「そうです。だから、ハーフエルフとかハーフドワーフも一定の数は存在するのだとおっしゃってました。そして、魔族というのは、本来魔力を持っていないはずの獣人が魔力を持つようになった存在を言います。」


「えっ?後天的に魔力を持つようになることは可能なの?」


瑠夏の問いに、一瞬言葉に詰まったミレイだったが、そのまま言葉を続けた。


「はい・・少し言葉にしにくい内容ですが、魔力を持つ存在を生きたまま食したり、何らかの力をもって強引に相手の魔臓を己の物とすると、体内に魔石が生成され、魔法を使えない種族であっても魔法が使えるようになることがあると言われていますが、他には異世界より渡ってきた魔人や魔物が、体内に魔石を持っていることが判っています。」


「・・生きたまま食べる・・・」


瑠夏には思い当たる食習慣や風習が容易に想像できた。


「魔臓というのは、何なの?」


その問いに、ミレイは少し答えにくそうな表情(かお)をしたが、そのまま答えを続けた。


「魔臓というのは、言葉通り魔力を作り貯める臓器です。エルフやドワーフも持っていますが、妖精族と比較すれば比べようにもありません。妖精族は、ハーフリングと呼ばれる妖精が受肉した種族と、幻想種と呼ばれる神獣の血を引くものと、単なる意思を持ったエネルギー体である妖精種で構成されています。先程少し説明したハイエルフはどちらかと言えば、かなり妖精族よりの存在です。妖精族は数も少なく、特にハーフリングは、攻撃魔法は殆ど持っておらず、錬金や合成、分解、成長促進などの生産系の魔法しか使えない者も多かった為に、多くの種族に奴隷として使役されてきましたが、幻想種の族長であった父がその解放に乗り出し、ハーフリングの族長であるカルタおじさまと協力して、世界侵攻を目論む魔族から他の種族を護ることを条件にして、数百年前に自由都市フルメンクを創設して、完全にハーフリングを開放することに成功しました。」


「ミレイちゃんのパパって凄い人なんだね。」


瑠夏の言葉に唇を噛みしめるような仕草を見せたミレイであったが、スルーするかのように話を進めた。


テーブルの上に置いたグラスの氷は全て溶け、テーブルには水溜まりができていた。


「ちょっと待ってね。グラス変えてくるね。」


そう言って、瑠夏はグラスを持ってキッチンへと向かうと、新しいグラスに緑茶を入れて、ミレイの前に置いた。なんとなく、甘くない飲み物の方が良いと感じたからだ。


「百年ほどの戦争で魔王を倒すことができて、残った僅かな魔族も、別の大きな島に追放することで、魔族と他の種族の争いもどうにか収めることができたんだけど、その頃から人族と獣人族の数が急速に増えだして、周辺に侵出することで、周りの他の種族と揉めることが多くなってきました。最初のうちは、魔力も戦術も力も大したことなかったから、あまり問題にならなかったんだけど、数だけは多くて、繁殖力に乏しい私達には、無視できない存在になってしまったことも、今回の戦争の原因の一つかな。」


そう言って、ミレイはテーブルの上の緑茶を口に含んだ。


「そして、決定的なことが生じたのは百年ほど前のこと・・」

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