第14話:リハビリ1

「ねぇ、少し聞いていいかな?」


ミレイの髪の毛をドライヤーで乾かしながら、瑠夏がかなり申し訳無さそうな声で訊ねた。


「僕がこの前家族のことを話した時に、それこそ申し訳ない程の号泣をしてしまったわけだけど、その・・」


その後を続けにくそうな瑠夏に対して、気遣うようにあとの言葉をミレイが続けた。


「そのことなら全く気にする必要はありませんよ。私は長いこと精霊の巫女を務めておりましたから、皆様方の悩みや心の病を癒やすことは日常の一貫でしたから、経験豊富というやつですね。」


そう言って、まだ戸惑いを隠せない瑠夏を見て、ミレイは更に言葉を続けた。


「瑠夏は、私が何歳に見えますか?」


「えっ?」


六歳くらいの幼女と思っていた瑠夏は、彼女のプライドも考慮して、少し高めに答えようと思った。


「う〜ん、八歳くらいかな?」


その答えを聞いたミレイは、望んでいた答えを手に入れたようで、にっこり笑いながら答えた。


「残念、二百五十六歳です。」


「えっ!」


あまりの数字に、瑠夏は固まった。


「見えないでしょ。仲間達からもよく言われてましたから。私の父は神獣の一柱である神狼(フェンリル)で、母はもう亡くなっておりますが、炎の精霊王でした。私達は大まかに括ると、幻想種と呼ばれており、五百歳になって初めて一人前と言われます。だから、仲間からすれば私はまだまだ若輩なのですが、たまたま精霊神に見初められ、神子に選定されましたので、悩み相談はお手の物です。だから、全く気にする必要はないのです。」


想像外の答えに、瑠夏はドライヤーを動かしていた手を止めてしまった。


「あっ、熱いです!」


「ごっ、ごめんなさい!」


殆ど乾いた髪を高い位置で二つに纏め、ハイツインテールと呼ばれる髪型かわ出来上がると、瑠夏はもう少し確認したかったことを、氷を入れたみかんジュースを飲みながら一息つくミレイに訊ねた。


「ミレイさんの世界では、人間も長生きなの?」


「今更、敬称なんてつけなくて良いですよ。これまで通りミレイとか、ミレイちゃんと呼んでください。私的には、そちらの呼び方のほうが好みです。」


一瞬、答えに悩んだが、見かけ上呼びやすいこともあり、瑠夏はそれを受け入れることにした。


「じゃあ、ミレイちゃん、人間のことだけでなく、ミレイちゃんの生きてきた世界について教えてもらえると嬉しいかな。」


「判りました。確認したいことがあれば、その都度聞いてください。私の答えられる範囲で答えさせて頂きますから。」


そう言って、テーブルの上のアイスティを一口飲み、大きく息を吸ってから、ミレイは話し始めた。


「私達の暮らす世界は、『アステリア』と言います。創造神を含めた十二神の主要な神と、各種族や地域を護る多くの守護神が存在し、世界の秩序を維持していますが、争いが無いわけではなく、種族間の諍いは絶えたことがありません。各種族により文明の進み具合はマチマチで、それも争いが無くならない理由の一つと言えます。」


「各種族で文明の進み具合が異なるというのは、僕達の世界でも同じだったよ。力を持つ種族が、持たない種族を支配下において使役するなんてことも普通にあったからね。」


「そうなんですね。文明が進んでいるのと武力に勝るというのは似ているようで異なりますから、必ずしも優れた文明が生き残るわけではないですからね。」


ミレイは、瑠夏の暮らす世界も私達と同じように悩み、争い、憎み合いながら成長してきたのだと理解していた。

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