第10話:某掲示板にて

【私は、某紛争地域で一人で暮らす日本人です。早朝に自宅前で六歳くらいの少女を保護しました。何とか点滴ルートを確保しましたが、全身が衰弱しており殆ど意識がありません。かなり脱水を起こしているようですが、私にはこれ以上のことは不可能です。一番近い医療機関まで三日ほどの距離にあり、すぐに医療を受けれるような状況ではない私達に、どうぞ力をお貸しください!よろしくお願いします】


通りすがりの素人A【これは素人が口を挟んだらダメなやつ。ドクターヘリ案件】


通りすがりの素人B【紛争地域ってあったじゃん。ドクターヘリ撃墜されちゃうよ】


通りすがりの素人C【お医者さ〜ん、誰かいませんか?急患です!】


通りすがりの看護学生A【まだ卵ですが、少しは助言できます。よろしいですか?】


素人B【癒しの看護学生、来たぁぁぁぁぁ】


看護学生A【癒やしではありません。静かにしてください】


素人A、C【そうだ!黙れ!】


素人B【はい】


相談者【ご協力ありがとうございます。よろしくお願いします】


看護学生A【衰弱して意識が混濁しており、かなりの脱水が見られる。これは間違いないですか?】


相談者【はい、間違いありません】


看護学生A【原因は別として、かなり重症の脱水が存在すると思われます。バイタルというか、顔色、体温、呼吸数、脈拍数を教えてください】


素人A、B、C【・・・】


相談者【顔色は白に赤というか少し紫がかかった感じで、唇の色も赤とかピンクじゃなくて、濃い紅(エンジ)というか、紫がかっています。体温は冷たいです。全然体温計の表示が上がらないです。呼吸は浅くて早いですが、ハァハァというより呼吸してるの?って感じです。脈は判りません】


素人C【素人が聞いてもヤバいだろ】


看護学生A【静かにしてください!】


素人C【はい】


看護学生A【重度の脱水というより、命の危機といった方が良いと思われる状況です。心臓の音が知りたいのですが、ガラスのコップを胸に当てて音を聞いてもらっても良いですか?特に脈に不正がないか知りたいのですが、よろしくお願いします】


素人A、B、C【・・・】


相談者【不正と言うのか判りませんが、馬が走るような音が聞こえます】


看護学生A【・・心臓は著しく弱っているようです。本来であれば、脱水を改善するのに輸液量を多くして補正するのですが、それをすると、この子の場合は、心臓に負担がかかって、急速に心不全を起こして、心臓が止まるかもしれません。六歳くらいの子供ということでしたから、一日の維持輸液量は一リットル位になります。言い方がキツイかもしれませんが、脱水を改善することは諦めて、その子自身の体力にかけるしかないかもしれません】


相談者【・・そうですか、色々とご指導ありがとうございました。ガンバってみます。あと、輸液量を調節する簡単な方法があれば教えて下さい】


看護学生A【輸液筒と呼ばれる液が滴下する場所があると思います。大人用の点滴セットだと、二十滴で約一ミリリットルですから、一日の輸液量を一リットルにするには、一分当たり十三から十四滴落とせば良いと思います。気圧によって誤差があると思いますから、体調の観察を三十分から一時間ごとに行い、その都度輸液量も大まかに観察してください。あまりお力になれなくてすみませんでした】


相談者【そんなことないです!すごく役に立ちました。本当にありがとうございました】


素人A、B、C【お疲れさまでした】


相談者【皆様もありがとうございました】


素人A、B、C【お前もガルバれよ!応援してるぞ!】


看護学生A【一つ伝え忘れていました。脱水が改善されるとオシッコが出てきます。病院なら尿道カテーテルを使うか、子供ならオムツを使用すると思いますが、多分無いと思うので、寝かせているベッドにビニールシートかゴミ袋を並べるかして、その上に大きめのバスタオルなどを敷くと良いと思います】


相談者【了解です。重ね重ねありがとうございました】


ーーー三日後ーーー

相談者【皆様、ご心配をおかけしました幼女Aですが、翌日には排尿して体調は徐々に改善し、今朝無事に目を覚ましました。お昼には僅かですが、食パンと牛乳から作ったパン粥を食べることができました。これから暫くは養生が続くと思いますが、あまり心配は必要なさそうです。本当にありごとうございました】


素人C【善き哉、善き哉】


看護学生A【本当に良かったです。何分にもまだ学生の身分ですので、自分の提案したことが正しかったのか判らず心配してました。ご報告ありがとうございました】


素人A【良かったです(´;ω;`)】


素人B【元気になったら、画像を一枚上げてくれると嬉しいな】


素人A、C【・・クズだな】

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