第9話:これを同棲と呼ぶのか?
洞窟に座り込んでいた少女は、かなりヒドい状態だった。皮膚はカラカラに乾いており、唇に水気は全く無く、殆ど意識のない状態だった。
(これかなりヤバいだろ。俺があの事故の時の心的外傷後のストレス障害で、生きる希望も目的さえもなくして、全く食事を取ることができずに部屋でただ寝てただけの時よりも更に最悪だぞ)
瑠夏は、自分の部屋のソファの上にジャンボバスタオルを敷き、その上に彼女をそっと寝かせた。
あまりに汚れが酷かったので、お風呂を沸かし、貯まったお湯を大きめの折畳式のバケツに入れて、ベッドサイドに持ってくると、固く絞ったタオルで何度も顔や身体を拭いた。
(傷だらけじゃないか、どんだけ無茶してきたんだよ。小学1年生くらいかな?親はいったい何してんだよ。子供にこんな危ないことさせちゃ駄目だろ)
髪の毛はタオルでは何ともできないので、ある程度の汚れは仕方がないと、身体を少しずらして髪の毛がソファの外に出るように寝かせ直し、何度もお湯をかけて汚れを落として、仕上げにリンスインシャンプーで洗ってから、もう三度お湯でシャンプーを流した。
(汚れ流したお湯がこんなに真っ黒になるくらいだから、ろくに風呂にも入ってないだろう。身体もガリガリだし、今だけじゃなく、それまでもまともに食事してないだろ)
申し訳なかったが、服やローブや簡易鎧は脱がして、ワンピース代わりに瑠夏の白いTシャツを着せて、最後に自分のベッドにタオルケットを敷いてシーツ変わりとして寝かせた。相手がまだ幼女で本当に良かったと思う瑠夏だった。
(服や下着も何とかしないとな。後で忘れないようにべメゾンで注文しておかないとすぐに着るものなくなるぞ)
どうにか彼女の着替えを済まし、瑠夏はベッド横の棚の下の方に収納しているダンボールを引きずり出して、中に入っていたビニール製の輸液バッグを取り出し、一緒に入れてあった点滴セットと延長チューブの期限を確認した。
(まだ期限が切れてなくて良かったよ。あの時のお医者さんには感謝するしかないな)
瑠夏がこの部屋でたまたま瀕死の状態で発見された時に面倒を見てくれた医師が、どうせ体調悪くても受診しないだろうし、連絡もしてこないだろうから、自分で点滴する方法を覚えるように指導してくれたことが役に立っていた。
(しかし、こんな時にあの頃の経験が生きてくるとは、当時は思いもしなかったよな)
ベッドサイドに点滴スタンドを立て、輸液バッグに点滴セットを差し込み、点滴筒を親指と人差指で圧迫して緩めて、輸液を誘導し、ルートを流して輸液が降りてきた時点でクレンメを止めてキャップをつけて準備してから、少女の左腕をゴム管で縛り、翼状針(よくじょうしん)を血管に刺して、血液がルートを逆流してチューブの出口まで来たところで点滴セットと接続し、クレンメが緩められた。
(俺だからできたけど、これって医療関係者じゃないと無理じゃね)
翼状針を刺した部分をテープで固定し、少し引っ張ったぐらいでは抜けないようにループを作ると点滴を落とし始めた。
ネットで検索すると、体重二十五キロの小児の一日の必要点滴量は千六百ミリリットルとあったが、これだけ身体が乾いていると絶対に脱水おこしているはずと考えられた。
しかし、瑠夏にそれを是正するための知恵はなく、今の少女の状態を的確に判断するための診断能力など全く無かった。
(無駄かもしれないけど、掲示板で相談してみよう)
瑠夏は某掲示板に早速今の状況を書き込むと、それほど時間も立っていないのに返信があった。
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