第8話:とある二人の物語5
白夜は上空から視認されないように深い森を選びながら、ミレイを振り落とさないように慎重に、しかしスピードを緩めることなく駆けていた。
後ろにワイバーンが飛んでいることは、気配から容易に察することができたが、こちらをはっきりと認識しているとは思えなかった。
何頭かの魔物が白夜達に襲いかかってきたので、そのどれもを氷弾(アイスバレット)で蹴散らしたが、そのことで空を飛ぶ奴らに気が付かれるのが嫌だったので、その都度方向を大きく変えた。
そんなことを繰り返しながら四昼夜走り続けた頃に、やっと目的の洞窟のある崖を視界の先に捉えることができたが、白夜は、まだ追手を完全に撒くことはできていなかった。
白夜は洞窟にミレイを降ろし、壁に持たれかけさせるように座らせると、その頬をペロリと舐め、決意を込めたような目をして、洞窟から出ていった。
ーーー
ミレイがうっすらと目を開けると、目の前には暗い闇が広がっていた。全身に力が入らず、指を僅かに動かすことが精一杯だった。
(百夜、いる?)
念話で白夜に話しかけても、何の返事も帰ってこなかった。黒い騎士と白い魔導士に囲まれて、その場から逃げるように指示されて、必死に白夜にしがみついていたのは朧気に覚えていたが、途中でワイバーンに攻撃されて一度吹き飛ばされてからの意識は全く無かった。
(もしかして、白夜は私を逃がすために犠牲になったの?)
そう考えて、白夜との絆を探ってみると、微かではあったが繋がっていた。白夜が生きていたことに安堵はしたが、今の自分の状態では召喚するだけの余力は全く残っていなかった。
それから更に一昼夜が過ぎ、ミレイはその一日の殆どを寝て過ごしている状態だった。
(白夜は帰ってこない おじさまもパパもいない 国の仲間達も居なくなってしまった 私は生きている価値があるのだろうか? 死んだら精霊神様に叱られるのだろうか? ごめんなさい みんなごめんなさい 私はみんなの期待に応えられませんでした)
ふと意識が戻った時には、ミレイはそんなことばかり考えていた。流れる涙はとうに涸れていた。
自分という存在と世界の境界があやふやになり、ボーッと見ていた薄暗闇の世界に、十センチ程のキラキラ輝く短い光柱(ライトスティック)が転がってきた。
(光の精霊? こんなところに?)
ミレイがそんなことを思っていると、ガチャリと扉を開くような音がして空間が裂け、中から右手に短剣のようなものを持ち、左手に小さな輝点を持つ薄い小さな箱を持った一人の人間のような姿をした存在が突然現れた。
それは周りを探るようにキョロキョロ首を動かすと、彼女の姿を見つけて、驚愕したように目を見開き、暫くの間、放心しているかのように彼女を見つめていた。そして、はっと我にかえると、その空間に漏れ出てくる光の中に戻っていった。
(神様かな?それとも精霊王様のお友達か何かかな?私を迎えに来てくれたのかな?)
暫くすると、再びドアの開くような音が聞こえ、先程の彼が大きなタオルを手にして光の空間から出てきて、ミレイをそのタオルでくるむとお姫様抱っこして、その光の中へと連れて行った。
これが二人の出会いだった。
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