第4話:とある二人の物語1
「カルタ、ここはもうダメだ。娘のことを頼んでも良いか?」
真っ赤な鎧に身を固め、大きなハルバートを振り回しながら、狼の耳と大きな銀色の尻尾を持った男が、背中を合わせる彼の腰ほどの丈しかない蒼い髪の白い鎧に身を包んだ少し長めの耳を持った少年のような男に声をかけた。
「判った。落ち合う場所はどこにする。」
そう応えるカルタに、前方から十数本の氷の槍(アイスジャベリン)が襲いかかるが、彼は手にした銀色に輝く長剣により、一刀のもとに切り刻んだ。
「キルーケル森林の第三砦だ。あそこならまだ十分な戦力がある。エルフやドワーフの連中にも救援の要請はしてある。」
真っ赤に燃え上がったハルバートが、数人の金属鎧に身を固めた騎士達を両断すると、二つに別れた身体は紙のように燃え上がった。
「まぁ、あの連中は当てにできるとは思えないがな。取りあえず、他の連中は、お前に任せて良いか?」
そう言うと同時に、カルタの姿が一瞬消え、それとほぼ同時に十人程の騎士の首がとんだ。
「任せておけ。可能な限りの仲間を砦に連れていく。」
そう言うと高く上げたフシオの左手の上に突如として出現した巨大な火球が前方に集まった騎士の集団を薙ぎ倒した。
「ミレイはどこに居る?」
「森の神の祠だ。」
「侍女や巫女はどうする?」
「ミレイが戦いながら、抜け穴を使って既に避難させているはずだ。」
カルタは、その言葉の内容に感心すると、さすがフシオの娘だと納得して、大きくジャンプして近くの巨木の枝へと飛び移った。
「じゃあ、また後でな。」
その言葉に頷いたフシオは、火球により抉じ開けられた空間に飛び込んでいった。
ーーー
カルタやフシオが暮らしていた街は、史上最強の皇帝と評されるアルソルト三世が率いる人間と獣人の連合軍に滅ぼされようとしていた。
彼らの街フルメンクは、この世界には珍しく幻想種とハーフリングを中心とした複数の種族で構成されており、幻想種の代表である神狼(フェンリル)のフシオと、ハーフリングの若き族長であるカルタが運営していた。
他種族にも優しく、一部の自由を求めるエルフやドワーフにとっても暮らしやすい街であった為、多くの亜人達が集まり、人口は十万人以上まで増加しており、当時としてはかなり大きな都市国家として君臨していた。
雑多な種族の集まりではあったが、全ての種族が知恵を持ち寄ることで完成された街は、この世界に比較するものがない程の文明も誇っていた。
それを我が物とする為に兵を興したのがアルソルト三世である。
既に人属の全ての国を支配下に置いていたアルソルトは、現況に不満を持つ獣人国を誘い、十万の兵から構成される連合軍を結成し、自由都市フルメンクへの侵攻を開始した。
フルメンクを盟主とする連合都市国家群は、その強大な軍事力を前に一部は戦うこともなく降伏し、抗った都市も次々と敗退した。
その略奪、殲滅することを目的とした侵攻は、僅か数ヵ月程でフルメンクへと到達してしまい、一週間前に開始されたフルメンク侵攻作戦により、要であった主力は敗退し、撤退戦へと移行していた。
一ヶ月前から開始されたエルフ王国やドワーフ王国への大規模避難により、その人的被害は比較的軽微なものとなっていたが、経済的な損失は想像もつかないほど巨額なものとなるほどに蹂躙、略奪されていた。
戦線は既に完璧に崩壊しており、フルメンクの残存戦力は、僅かに数十人を残すのみとなり、その敗北は決定的であったが、幻想種の持つ能力や、ハーフリングの外見上の特徴と、人族の間では奴隷としてかなりの高値で取引されていることから、人族と獣人族の連合軍は攻勢を弱めることなく侵攻を続け、兵士ばかりでなく、街に残っていた一般人までもが戦闘捕虜として捕らえられていた。
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