第68話 ⁂*⋆* 最終回 ⁂*⋆*


 洋子は五歳の記憶が曖昧だ。

 只母の記憶はハッキリと思い出した。


 五歳のあの柳川会での母の女の部分を。男を誘うあのいやらしい、魅惑的な眼差し、子供心にも母親の女の卑しい一番見たくないあの目。


 何故、母は男を誘わずにはいられなかったのか?


 本来ならば話す事もままならいサンカ、奴隷として売り飛ばされるか?幼児売春目的で海外に売り飛ばされるか?なのだが、母の必死の甲斐もありハイソな山下家に貰われて行った洋子。


 軽蔑の裏側に見えて来た母の正体…教養も無い只のサンカの母が、子供たちを揃いも揃って上流社会に送り込めた裏には、母の涙ぐましい努力があった。


 唯一誇れる美貌と身体を武器に、子供を守る為に最後に出来る唯一の砦が、甲斐無しの夫では守り切れない子供達を、自分を最大限に活かして男たちを虜にして、子供たちを守る事だった。


 洋子をこんな立派な養父母の下に送り込ませてくれた母は、裏社会の目の肥えた男たちをも惹き付け、虜にして、自分の意のままに動かせられる事に長けた母だった。


 知性溢れる洋子は、今この母の生涯をまさしく子供を守る為には、どんな事もいとわない。例え辱しめを受けようと結果が良ければOK。


 いかにしてお金を吸い取れるか?放浪民サンカ時代に、しっかり鍛練されていたヨシ子は、男の気を引き、操る術を自然と覚えていた。


 それでも…そんな事がまかり通る女性など、星を掴むより難しいのかも知れない。それをいとも容易くす出来る母は何者? それだけ魅力的で男を惹き付けずにはいられない何かが……。



 開放的なセックスが習慣だったサンカは、集団生活の中で欲望のままに誰に見られようと、欲望のまま女性優位のセックスが繰り広げられていた名残から、ヨシ子も本能のまま崩壊な女だった。


 蹴落とし!軽蔑!嫉妬!妬み!僻み!そんな感情も有るには有るが、それより何より自分と相手の欲するものを最優先するヨシ子には、驚きの連続だった宏。

 欲望のままに宏をむさぼるヨシ子には驚かされたが、それがあるべき人間の姿。人間の三大欲求眠る事、食べる事、セックスに真っ直ぐなヨシ子。


 現実社会に生きる我々は、世間体ばかり気にする、只の人間の皮を被った偽善者。


 ヨシ子を見ていると(権力にしがみつき、そんな霞のような吹けば飛びそうな権力の呪縛に取り憑かれ、日夜寿命を削り…な~んてバカな事で右往左往しているのか?愚かだな~!無駄な事で神経をすり減らして命の時間を縮め、命を削り、自分とは全く別人の鎧を被り、ひたすら自分自身を立派に見せようと虚勢を張って生きて来た人生)


 ヨシ子を見ていると一瞬「無駄な事に悩まないで!ありのままで良いのよ!欲望のまま鎧を脱ぎ捨て動物の如く」と言われているように思うのだった。




 さ————て!寝物語に浸るのはそこまでにして!


 文明の利器がここまで発達したのも、最強知能の人間達が食うか食われるか戦ってきた賜物……。


 人間達が切磋琢磨した結果なのだ。


 それに引き換え、動物的な、ただ本能のまま!欲望のまま!生きてきた、たくましくも最高のエロスサンカの名残を残したままのヨシ子にはまってしまった、プライドの塊の男達。


 男達はヨシ子に何を求めたのだろうか?

 ヨシ子があの世から「虚勢を張らないで!自分に正直に生きて!」

そんな言葉をかけてくれたような……。


 男達を虜にして離さなかったヨシ子は、2018年86歳の生涯を閉じた。



 🔷🔶🔷

 

 洋子は余りの恐怖で過去が曖昧だったが、最近徐々に過去の記憶が蘇って来た。


「私が犯罪者って?それで茂の両親が反対しているって茂が言っていたけど…一体何の事?」


 徐々に過去を思い出して来たが…あの時…確か、子供が見たらと目を覆われていたけど残酷に殺され…真っ赤な血が!ああああ…それが私が……?何か?殺害と……?

 

 洋子は太郎と温泉巡りをして由布院に来ている。豊後富士と呼ばれる美しい由布岳を後に帰路を急いでいる。


「キキキキキキ————!」

 太郎が運転を誤り急ブレ-キを!


「あああああ」


 洋子は過去のおぞましい記憶がくっきりと輪郭を帯びて見えて来た。


(殺害???あれは幼い頃の事じゃ無い!)


 過去の秘密「山下洋子ではなく、サンカ」を餌にお金の無心に来た竜二、いい加減にしてほしかった養父母は、無視をし続けている。


 そんな時に、高校生の洋子が、バス停から歩いて自宅に向かう途中の、防犯カメラも設置されていない場所で、二人の男達に無理矢理車に乗せられそうになった洋子は、美人で評判の娘だ。


 それなので両親が心配して【空手】を習わせていた。咄嗟に身を守るために男に技を掛けた。


 その時に自動車道に勢い良く男が、転がって行ってしまった。


「キッキッキキキキ————!」


ボッカ――ン!グッシャ―――ン!


「キャ————――――――――――ッ!!!!!」


 そして……。


 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

存在しない私 tamaちゃん @maymy2622

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ