第66話 二人の洋子! *****




 最近頓に?洋子は釈然としない違和感を感じている。

 それが一体何なのか?


 


 二〇〇八年母ヨシ子はもうすぐ七十七歳、もう最後の海外旅行になるかもしれない。


 洋子も母とは時間が空けば欧州、更には東南アジア諸国等ありとあらゆる所に旅行に出掛けていた。


 寄る年波には勝てず最後の海外旅行にしようと、中国旅行に出掛けた。


 北京中心部にある故宮(紫禁城)の正門であった天安門広場、かつて映画ラストエンペラーの舞台となった場所だ。


 母も高齢の為、屋内の売店や喫茶室を探しているのだが、分からず辞書片手に、つたない中国語で話しても伝わらず四苦八苦していると、洋子と同じぐらいの年齢の上品そうな女性が三人位の取り巻きを引き連れて、日本語で話し掛けてくれた。


「何かお困りですか?」


「嗚呼…日本語がお上手ですね。日本人なのですか?」


「いいえ中国人です。」


 そして…屋内喫茶室まで案内して貰った。


「また日本にお見えの時には是非とも我が家にお立ち寄りください。観光案内致しますから。」と感謝を込めて名刺交換をした。


 名刺には中華人民建築(株)取締役社長リ・シンイ―と書かれてあった。


 中国で五本の指に入る大企業だ。

 四十八年前に誘拐された麻衣子と賢介の娘洋子だった。


 本物の洋子は、ちゃんと存在していた。なんと言うことだ。成りすましの洋子と二人は広大な中国の巨大な権力の残像の残る、今にも悪の限りを尽くした亡国の元凶、権力に取りつかれた中国最大の悪女西太后が高貴な品々を身にまとい一瞬にして煌びやかな、その美しい装飾品を毒々しい装飾品に変えてしまう。


 その傲慢そのものの醜い悪魔と化した風貌を晒して…ふっと現れたような錯覚におちいった。


 そしてこの贅の限りを尽くした紫禁城に現れたような……。


 もう百有余年も立ったにも拘わらず、現世にタイムスリップした西太后の傲慢な高笑いが聞こえてきそうな…そんな錯覚を覚えるこの紫禁城。


 今…時代の変革をもたらした、この紫禁城を二人の洋子が交差して行く。


 そして美しかった老いた母のある一点に違和感を……?


 母は一体何者なのか?

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