第64話 由美子とうめ! ⁂*⋆*
一九九五年九月夕焼け空に赤色に染まったとんぼが、キラキラ飛び回っている。
そんな秋の空を眺めながら、うめから母と弟がいると言う話を聞いて以来、会いたくて会いたくて仕方がない由美子。
会社の運営や娘絵里のお受験などで日々が慌ただしく過ぎ去り、やっと一息ついた由美子は、東京のヨシ子の立派な邸宅に秘書を従えおもむいた事があった。その時に応対に出てくれたのが秀夫だった。
その日は丁度日曜日という事もあり、家族水入らず家でヨシ子と秀夫はゆっくりくつろいでいた。
その時に来客が?
一体どんな用件なのか思案に暮れるヨシ子と秀夫。
日本有数のヤマト醬油の社長の娘と名乗る由美子という女性だというが?
お手伝いさんが事情を聞き、ヨシ子と秀夫に伝えた。
上がって貰い応接室に通された由美子は、やっと会えた母を涙ながらに見つめている。
そして事情を全て話した。
だが、由美子の気持ちとは裏腹に秀夫が突然怪訝な顔で、迷惑そうにとんでもない事を言い出した。
「あの~お話はよく分かりました。ですがあなたのおっしゃる話は全くの出鱈目です。そのような出鱈目をおっしゃるようでしたら顧問弁護士に伝えます。初当選を果たし大輔も政治家として、これからという時にとんでもない事を言わないで下さい。迷惑です。お帰り下さい!」
政治家も人気商売。政界のプリンスとして持て囃されている、絶大な人気を誇る大輔にとんでもない汚点を付けてはと、躍起になる秀夫。
ヨシ子は末っ子のみよを見て一日たりとも忘れた事のないみよに会えて、懐かしさとうれしさで一杯だが、反面(大輔がこれからという時に迷惑な!全て白日の下に晒されたら大輔はどうなる!【トウカイ自動車】だって黙っちゃいない。人気だって地に落ちる。国民から政界のサラブレットと美貌の政界の女帝とまで言わしめた我々が、実は山々を放浪していた乞食みたいな者だったと分ったらどうなる?絶対隠さなくては?)
冷たくあしらわれた由美子は不愉快極まりない顔で、この邸宅を後にした。
(本当にうめもいい加減な事を!)腹立たしくて仕方ない。
🔶🔷🔶
二〇一三年の事だ。
近年は食の多様化などで醤油市場が縮小している。
そんな折にうめが日本人向けの小さなス―パ―をフィリピンにオ―プンした。それは…近年フィリピンに移住する日本人がかなり増えているからなのだ。物価の高い日本での安い年金生活を不安視して、老後移住を決めている。
日本では夫婦二人で最低でも月二十万円は必要だが、フィリピンでは月五万円程で生活出来るらしいのだ。その為、夢の楽園として永住する人が増えて来ている。
それでも…医療費や薬などが高額であるなど、問題点も多いのが現状だ。
二〇一四年ヤマト醬油の経営悪化をインタ―ネットで知る事になったうめは(散々由美子を苦しめたにも拘わらず助けて貰った由美子を、今助けなくてどうする!)現在フィリピンに三店舗経営する〈のぼれ〉なのだが、ヤマト醬油の商品を数多く仕入れ売上に貢献している。
小さいス―パ―の売上なんか、たかが知れているが?フィリピン全土で評判が評判を呼び、値段は張るが、きめ細やかな繊細なヤマト醬油は、中間層ス―パ―更に富裕層ス―パ―や和食レストランなどからも発注が相次ぎ、見事再生したのだった。
由美子も一時は殺したいほど恨んだうめだったが、今は感謝をしてもしつくせない気持ちで一杯。
散々由美子を苦しめ金をむしり取って、妬み嫉妬に駆られていたうめでは有ったが、愛する竜二と異国の地に降り立ち、夢のような幸せを手にしたうめは、今由美子には感謝しかない。
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