第62話 宏死す ***
一九九二年持病の心疾患の悪化で総選挙には立候補せずに、大輔を後継指名して政界を引退した宏。
大輔は二十七歳で宏の地盤を引継ぎ初当選を果たしていた。
そして…一九九四年晩秋、宏は心筋梗塞で八十二歳の生涯を閉じた。
ヨシ子の愛人秀夫は、宏の逆鱗にふれたにも拘らず、公設秘書の中でも最たる存在だったので首は免れていた。いくら愛するヨシ子の男と分かっていても、最近ではヨシ子と大輔の力が上回り、更には秀夫がいないと回っていかない為、仕方なく首にならずに済んでいた。そして…現在は政策秘書として大輔をバックアップしている。
「大輔、ママ秀夫さんと入籍しようと思っているんだけど?」
「いい加減にしてよ~。みっともない。いい年して~!別にその年で入籍しなくても…」
「そっそうね…」バツの悪そうな顔のヨシ子。
大輔にしてみれば年老いた母に、女の部分を見るのは嫌で耐え難い事。
ヨシ子もそれをよく知っているので今の状態でも良いと思っているのだが、まだヨシ子よりも二歳も若い秀夫にすれば、人並みの結婚をして我が子をこの手にしたかったが、その夢も叶わず、そのためヨシ子と結婚だけでもと必死だ。それなのでしきりに、ヨシ子をせっついている。
こんな秀夫だが、東大卒の肩書きとイケメンぶりに、秀夫にはめぼしい女はいくらでもいたが、ヨシ子ほど美しい女性に巡り合う事が出来ず、こうして延々と関係が続いて来た。
🔷🔶🔷
宏も亡くなり、やっと大輔の許可が降りヨシ子と晴れて結婚出来た秀夫。
秀夫はこの年まで結婚もせず、ヨシ子との結婚生活を待ち望んだ甲斐もあり幸せの絶頂だ。政策秘書の秀夫は多忙を極めている。
そんなある日、家に重要書類を置き忘れたので取りに帰った。今までは宏が居たので頻繁に家に入れなかったが、もう自分の家、誰に気兼ねが有ろうか、そそくさと入って行った。
その時に応接間の隣の部屋から微かに女のなまめかしい声が?そして…聞き耳を立ててこっそり聞いた。
「こんな事~もう…こんな事…やめてください…あああ*💋*⋆*・。♡。・。⁂*⋆*ノ♡」
実はヨシ子の過去をネタに、もう数十年も前から金品だけでは飽き足らず、身体までもむさぼりつくす男がいた。
ヨシ子はこんな貧相な汚い格好の、身分の低い男と関係を持つのは死ぬより辛い。だが、サンカである事だけは、どんな事をしても知られたくない。
(完璧過ぎる息子の大輔だって、放浪民サンカの血を引く乞食に寸分変わらぬ血が流れている政治家と、分かれば人気は急降下、下手すれば折角引き継いだ地盤も、本妻の娘婿に渡ってしまう。どんな事をしても過去を隠すためには、屈辱的な行為と分かっていながらも、関係を続けるしかない。そう思い家族が出払った時間帯に隠れて関係を続けて来た。
秀夫は応接間の隣の扉をほんの少し、ごっそりと開け一部始終を見てしまい、怒り💢で気が動転して怒鳴り込んだ。
男は夫が帰って来たのも知らず、行為にふけっていたが、夫から恐ろしい事を言われた。
「人の妻に手を出して、こんな事がまかり通ると思ったら大間違い。妻をオモチャにした罪で訴えてやる!そして…法外な慰謝料を請求してやるからな!」
やっと一緒になれた愛する妻が、こんなふしだらな女だったとは、頭に来た秀夫は強い口調で妻にも問い質している。
「一体どういう事なんだ?こんな所を見せられ、許せる訳ないだろう?もう終わりだ!許せない!離婚だ!離婚!」
「ウウウワァ~~ン😭違うのよ~シクシク。゚(゚´Д`゚)゚。ワァワァ~~ンワァ~~ン私の全てを…暴露すると言って…脅迫されて仕方なく…ワァワァ~~」
「何を脅迫されていたんだい?」
「実は…実は…私は…」
「何だ。はっきり分からないじゃないか?」
「…それが?…ちょっと?…言えない…」
すったもんだの末、もう逃れる事が出来ないと思ったヨシ子は、とうとうサンカである事を話した。
「サンカと言っても…お前は木村百合じゃないか、絶対そんな事人に話すな!分かったな?人に知られなかったら関係無い。絶対言うなヨ!」
そして…法外な慰謝料請求を要求されたこの謎の男は、サンカをネタにゆすっていたが、これ以上この家族の出自を公にしない事を条件に秀夫から解放されたが、その一部始終が決着するまでには想像を絶する、秀夫からの空手技の数々が有った。
散々技をかけられて死ぬ思いをした謎の男は、二度とヨシ子の前に現れなくなった。
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