第60話 光子の死! ***
二〇〇七年二月某日の事だ。いつまでたっても帰って来ない妻ゆかりを心配した夫北川と十一歳の娘は、行方不明になった妻を血眼になって探している。
警察の懸命な捜索にも拘らず物的証拠が一切見つからない。
警察もお手上げ状態だ。そして行方不明者リストに登録され、行方不明者としての捜索に切り替えられた。
🔶🔷🔶
二〇一九年十一月の、初冬の肌寒い朝、光子八十七歳は胃がんの為この世を去った。
当然のことながらキヨシは、通夜にも葬式にも参列出来ない。ましてや成りすましが、長男として表舞台に立つなど以ての外。
世間様は山本清輝をよく知っているので、葬儀に出席出来ないのは当然の事だ。
妻の里美には、母が亡くなった話は話してある。
その為里美も光子の好きだった白い薔薇の花を飾り、ヒッソリと仏壇に手を合わせてくれている。
キヨシは部屋に籠り泣き明かしている。
田端組に拾われて親分と姐さんには散々可愛がって貰ったが?気の荒いヤクザモンの事、いつ機嫌を損ねて半殺しの目に合うかビクビクしながらの毎日(いかにして、お気に入りになり可愛がって貰おうか?)自分を押し殺しての毎日だった。
それに引き換え山本光子の存在はキヨシにとっては、幼い頃に離れ離れになった母と寸分変わらない存在だった。
十八歳の薄幸の美少年キヨシ(現実社会から完全に遮断された畜生同然の身の上のこんな俺を、何のためらいも無く煌びやかな世界に導いてくれた命の恩人。人からさげすまれ、軽視、軽蔑、侮辱の眼差しを当たり前のように浴びて、ひねくれきっていたこの俺を、何の躊躇もなく受け入れてくれた、優しい優し過ぎる仮初めの母。こんなきびしい渡世の中、思いっきり甘やかせてくれた。
本当は男と女の関係になどなりたくなかった。だが…光子が年甲斐もなく求めて来たので致し方なく応じたが、最初の内は光子と共に過ごす時間の中で、この時間が何よりイヤだった。何か?女というより母を抱いている気がして…それでもホストのはしくれ、お金の為だったら選り好みなどご法度。
そして…いつの間にか、光子とのセックスは無くてはならないものに変化して行った。
幼少期の微かに残る母の温もりに逢いたくて、母におぼろげだが、思いっきり抱きしめて貰ったあの頃を思い出し、あの頃に戻りたくてベッドを共にするのだが、やがては…経験豊富な最高のテクニックでいかせてくれる。若い女性には到底真似の出来ない光子のテクニックには、いつもながらに驚かされ絶頂を味わされ、沢山のおまけ付きに、他人には親子以上年の離れたカップルでヒモだ。可哀想に。等、散々非難を浴びせられたが、それは内情を知らない他人の言う事。光子との時間はかけがえのない時間だった。
(やっと恋しい母に会えたような気がした。この時間が永遠であって欲しい!あんなに満足させられ、安らぎを与えてくれた光子が何故?何故?死んだ!!!ワァワァ~~ワァ~~ン😭)キヨシは憔悴しきっている。
そしてキヨシは、愛する妻里美と昔住んでいた岐阜県と長野県の県境に位置するあの原点の場所に、車で向かっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます