第32話 大輔の恋愛⁂*

 


 一九八五年ヨシ子の息子大輔は、東京大学政治経済学部経済学科二年生。

母親譲りの絵に描いたような色男で、好青年に成長した大輔。

 

 本宅のお嬢様達に良縁をと、待ち望んでいたにも拘わらず当てが外れた父宏は、大輔に地盤を引き継がせたいと真剣に考えている。


 もし娘達が良縁に恵まれれば、本妻の手前娘婿に地盤を引き継がせるつもりだったが、残念な事にそれは叶わなかった。



 だが、ヨシ子は本妻では無くお妾おさん!石川県の貧乏な農村の娘、ましてや両親はとっくに火事で焼死しており身寄りの無いヨシ子では票固めで問題がある。


 辰子のように大企業のお嬢様なら政治献金の他、会社一丸となって票固めに協力してもらえる。そんな事を考えあぐねる宏なのだ。


 一方の大輔は一学年下の同じ大学の日本が誇る【トウカイ自動車】社長令嬢の三女明美から言い寄られている。            


 実は、大輔は現在同学年同学部の留美子と交際中なので眼中にないのだが、大輔の二十歳の誕生パーティーに、父もやっと大人の仲間入りが出来た。と喜び盛大なパ-ティ―を開いてくれた。

その時に息子と同じ大学という事もあって父親も懇意にしている【トウカイ自動車】の社長令嬢明美を招待していた。


 勿論留美子も招待されていたのだが、普通の家庭のお嬢さんの為、大輔も反対されるのが嫌で両親に言っていない。その為両親も付き合っていることは知らない。


 明美は、ハッキリものを言うお方で(ただのわがまま娘)、寄りによって大輔の母ヨシ子に「わたくしが大輔さんに近づこうとしても何か、ガ―ドが固くて?お母様大輔さんは、わたくしの事がお気に召さないのかしら?」と訴えていた。


「あら~主人とわたくしは大歓迎ですよ~!オホホ」


 ある日父が訪ねた。

「大輔明美ちゃんの事どう思う?」

すると、大輔は見る見る顔色が変わり、いかにも不機嫌そうな顔になった。


 実は明美は大企業のお嬢様だが、大輔のタイプではない。頭は良いが、我がままで自己中心的な性格、更に外見は身長は低くずんぐりした身体つき、お世辞にも美人とは言えない留美子とは対象的で大違い。母のヨシ子は息子の変化に気付いて困り果てている。


一方の父は、息子の行く先々の事しか眼中にない。

「政治家になる為には後ろ盾が必要だ。明美ちゃんが大輔にかなりのご執心で願ってもない話、どうだ将来のお嫁さんに?」


「実は僕には付き合っている彼女がいます。木下留美子ちゃんで、この前の誕生パ―ティ―にも来ていた娘です。」


「アア……そういえば綺麗なお嬢さんが一人居たな~?髪の長いブルーのワンピースあの子かい?」


「そうそうです。ブルーのワンピースの子です。」


「ふ~ん?親は何をしている?」


「チョットはっきりとは???」


 数日後父が血相を変えてやって来た。

「大輔あの留美子という娘は絶対ダメだ!」実は父が秘書に調べさせた。            


「何故ですか?」


「遠縁に犯罪者がいる!それも殺人者だ。それに親も普通の人、箸にも棒にも掛からぬ男だ。お前にそんな家の娘など絶対ダメだ!」


「犯罪者と言ってもかなりの遠縁、関係ないじゃないですか?どこの家だって一つや二つ何かあるに決まっている。僕だって妾の子じゃないですか?」


「ゥゥウ。゚(゚´Д`゚)゚。シクシクなんて事言うの」母が泣いている。


「お前お母さんの前でなんて事言うんだ。バカモンが———!」


「僕は僕は絶対留美子しか考えられない!」


「明美ちゃんがあんなに真剣なのに可哀想じゃないか。あんな卑しい家の娘なんか絶対許さん!」

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