第27話 母との再会***
一九八五年洋子三十歳。
洋子の義父永井亮現衆院議員六十五歳が、票固めの為に懇意にしていた建築資材会社社長の市議会議員田村が、工事を巡って金銭トラブルになり男性社長に「支払いに応じないなら工事を妨害する」と脅迫して現金数百万円を脅し取ったとして恐喝容疑で逮捕された。
実はこの市議会議員は、北九州最大の指定暴力団「加藤会」の元組長だった事が判明。現在も「加藤会」との関係があるのでは、との声が上がっている。
郵政大臣の義父亮は、こんな事では経歴に傷が付くと、もみ消しに躍起になっている。
以前に開催した政治献金パ―ティ―で田村が運営している会社から献金としてパ―ティ―の代金百万円が、永井の指定した資金団体に支払われた事が報じられた。
元総理大臣だった村上宏は現在副総理兼財務大臣。以前郵政大臣の要職に付いていた事もあった宏は亮を家に呼びつけている。
「建築資材会社社長の田村さんが「加藤会」組長だったなんて思ってもみなかったので誠にすみません。」
「北九州市小倉北区は暴力団の聖地と言っても過言ではない。どうしても繋がりが避けられない。だがお前さんは深く関与し過ぎだ。まだ新聞記事にされていないが、いろいろボロが出てきている。どうだ今度の選挙では息子の太郎君に地盤を引き継いでもらって、クリ―ンなイメ-ジで行こうクリ―ンな…」
「それは辞めろと言う事ですか?」
「そうだ!新聞社に握られているから、今度の衆院選にも影響すると困るから…」
「そっそんな~!」
そして半年後。息子の太郎が地盤を引き継ぐ為に、妻洋子と自宅に呼び出されている。
高齢の宏は、出来るだけ自宅を利用するようになって来ている。
実質上妻の妻ヨシ子も、甲斐甲斐しくお世話に余念がない。
太郎と洋子は、四十代後半ぐらいにしか見えない、この美しい女性に目を奪われ見入っている。
宏の世話も終わり太郎と洋子に話し掛けようと顔を上げて話を…(もしかして…いと???まさか~?)
洋子も一日として忘れた事の無かった、二十数年ぶりに会った、たとえ二十数年経とうが益々洗練されたあの母にそっくりな、例え五歳と言えどもあの美しい母の事は鮮明に覚えている。
総理副大臣の実質上の妻を母などと言ったら太郎の出世に響くと思い、涙を押し殺して(ひょっとしたら?いや!いや!あんな下級の世界からどうやって総理副大臣の実質上の妻に…ましてや元総理大臣の実質上の妻にまで登り詰めたなど、絶対あり得ない!そう思う反面あの笑った顔や放浪の旅で負傷したおでこの傷、確信に似た思いでやっと会えた!やっと!)知らず知らずのうちに目からは溢れんばかりの涙が!
「おい洋子どうした?目から…」
「いいえ何でも…何でもないのよ?」
宏大臣と太郎が重要な打ち合わせが有る為、席を外した二人。
「洋子さんこちらにいらっしゃいな~」
「有難うございます」
「…………?」
「…………?」
「アア……あのう……あのう……ひょっとしたら?あのう山奥の~?おっお母さん?」
洋子は感極まり、やっと会えた母を思い涙がとめどなく溢れ出ている。
我を忘れて母に抱き付いた。
「アア……会いたかった~!」
「あら…あなた変な事おっしゃるのね~?何を勘違いなさってるの…」
怪訝な!いかにも不愉快そうな顔で——―
「えええ~?嗚呼…やっぱり私の勘違いでした。ごめんなさい」
今のヨシ子は、(昔の子供達の事など忘れ去りたい!木村百合として生きているのに…絶対誰にも知られたくない!元総理大臣の妻、総理副大臣の妻の肩書きを失いたくない!昔のみじめな世界の事など恥ずかしくて…優秀な息子大輔を政治家にして権力を手中に…)
今全て白日の下に晒されたら、全て終わり!洋子を思う母心の前に自分を守ることが先決なのだ。
その為洋子が目障りで仕方がない。
いつの間に…あんなに優しかった母の姿を失ってしまったのか?
権力という呪縛に取り憑かれ、母を捨ててしまったのか?
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