第24話 キヨシに女の影⁂*⋆*





 キヨシこと(山本清輝)偶然にも、似通った名前だった山本光子の息子山本清輝に成りすまして生きているキヨシだが、妻の里美には怖くて事実を話していない。


 事実を知ったらプライドの高い里美の事、絶対離婚になってしまうと思いビクビクしながらの毎日。


 一応さとみ皮膚科クリニック理事長におさまっているキヨシなのだが、 実態は学歴の無いキヨシに出来る事と言えば書類のハンコウ押しと雑用だ。


 だが…最近息子の誠も授かり、にわかに忙しくなって来ている。


 お手伝いさんがいるのだが、お手伝いさんには、他の掃除や洗濯など家事全般をやってもらい、最近は理事長としての仕事の傍ら里美の食事の準備、更には誠の離乳食作りに大忙しの毎日。キヨシは妻と息子の誠にも恵まれ幸せの絶頂。


 今日も妻に喜んでもらいたくて、また誠の離乳食作りの材料の買い出しにデパ—トにやって来た。


 そんなある日の事。

「あら~理事長さん」と声を掛けて来た者が…病院の看護師松本ゆかりだった。


「理事長さんとまさかこんな所で会うとは思いませんでした」


「本当だね?びっくりしたよ!」                


 松本ゆかりは今二十六歳。二十歳で正看護師の資格を取得して、総合病院に勤務していたのだが、アパ―トの近くにさとみクリニックが出来た為に、わざわざ1時間以上もかけての通勤に辟易していたゆかりは、このお洒落な外観のさとみクリニックが出来た為に総合病院を退社して、さとみクリニックに勤めだしたのだった。


 開業から早五年。開業当時からのメンバーなのだ。


「理事長チョット相談が有るのですが?」


「なんだね?」


 二人は近くの喫茶店に入ったが、キヨシは内心穏やかではない。古参の看護師長に辞められては大変。そこで早速お茶をしながらゆかりの相談に乗った。


「一体辞める理由は何だい?」


「先生のパワハラでストレスが溜まり…辞めさせてください」


「里美も理由なしに噛みつかないだろう?何か心当たりは…」


「それが思いつかないのです。以前は私が一番古参の看護師長の為、私だけコッソリ食事に誘って貰ったり、家に招いて貰ったこともあったのですが?最近は私を患者さんの前で罵る等、かんしゃくが酷いのです。まあ私がいたらないからだとは思いますが?」            


 実はゆかりは、かなりの美人おまけに仕事も完璧。


 だが、まだ結婚して一年余り、里美四十一歳、キヨシ二十六歳で、十五歳も年の離れたキヨシが若い看護師にうつつを抜かすのではないかと、気が気では無いのだ。          


 その為、若くて綺麗なゆかりが目障りで仕方がない。


「そうか~?妻に話してみるから…」


 その夜仕事も終わりキヨシが里見にゆかりの相談の一部始終を話した。


「看護師長のゆかりさんに偶然デパ―トで会ったんだ。あんまりにも酷すぎなんじゃないか…大切にしないと!」


「あなた…まさか、若いゆかりさんに、心奪われているのでは?十五歳も年上のおばあちゃんなんか…」


「バカ言うんじゃないよ!俺は里美の仕事に取り組む姿勢に惚れているんだ」

 まだ結婚して一年余り。

 里美は四十一歳でキヨシ二十六歳それも超イケメン。十五歳も年の離れたキヨシが若い看護師にうつつを抜かすのではないかと気が気では無い。          


 その為若くて綺麗なゆかりが目障りで仕方がない。



 🔷🔶🔷

 

 何事もなく過ぎ去ったある日、又してもデパ―トで……。


 この日キヨシは里美の誕生日プレゼントを見に来ていた。  

 数日後に誕生日を迎える妻に指輪にしようか?ネックレスにしようか?考えあぐねている。


 その時にゆかりが、又しても声を掛けて来た。


「先生には絶対このネックレスが良いと思いますよ?」


「そうか~?じゃ~これ下さい」


「お世話になったから食事でも…」


「いいんですか?有難うございます」


 その後パワハラも収まり平穏な日々を取り戻したゆかりだが…実は以前から素敵な理事長さんだとは思っていたが、あの日喫茶店で相談に乗ってくれるキヨシの真摯に誠心誠意相談に乗てくれる姿、愁いを含んだ表情にすっかり惚れ込んでしまった。


 まぁ分からないでもないが?ホストとして目の肥えた高級マダムまでも、ことごとく魅了していたキヨシに惚れない女がいようか。


 何とかもう一度二人きりになりたい。その一心でチャンスを狙い付け回していた、ゆかり。


 誰にも知られないように、偶然を装いキヨシに接近。ある時は街中で、ある時はス―パ―で、その都度引き留めベンチで話したり、ある時はお茶をおねだりして喫茶店に入ったりと、キヨシもゆかりの存在は、いつの間にか有って当たり前の存在となって行った。


「また会ったね?」


「本当によく会いますね」


 こんな事が繰り返されたある日、とうとう過ちが起こってしまった。


 それはデパ―トでのヒトコマ。

 もうかなり親しくなった二人は、会えば車で送るまでになっていた。この日は、息子のオモチャを見に来ていたキヨシ。

 軽食を取った二人はキヨシの車で帰路を急いでいる。


 その時ゆかりが、キヨシの膝に手をおき思い詰めた表情で話し出した。


「理事長…私…今日帰りたくない」


「何を訳の分からない事を…」


「私はもう…どうなっても…どうなっても…理事長さんの事を思うと…苦しくて…もうどうなってもいい…結婚なんか…結婚なんか…望まない…」


「何を、何を言っているんだい?里美が…里美が…」


 元々ゆかりは豊満な身体と、美しい彫刻のような造形の美女。男なら誰でも、ものにしたい美女だ。


 それに引き換え妻里美は十五歳も年上で、女としての魅力も失われつつある。こうして…美女の誘惑にはまってしまったキヨシ。妻など目に入らなくなり、若い美しい女に溺れるキヨシ。


 この後大変な事態が待っている。


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