第16話 若き女性ドクター *



 病院経営の若き女性ドクタ―鈴木里美三十七歳は、五年も前からホストクラブキングの常連、4年前キヨシが新人で入って来た時からの常連客で、キヨシにご執心なのだ。


 以前は忘れたころにやって来る程度だったのだが、キヨシが入って来てからは、頻繫にこのキングに訪れている。


 


 里美の両親は大阪市北区一帯に代々土地を所有する地主様。


 先祖代々の土地を活用して不動産物件や賃貸マンション更には駐車場などの賃貸経営などを営む大地主———


 兄が二人に末っ子の女の子が里美なのだ。やっと授かった女の子に両親の喜びは尋常なものではなかった。


 両親の愛情を一心に浴びて、それはそれは幸せな幼少期を送っていたのだが、里美はどもりでは無いのだが、極度に緊張すると、ついついどもる癖がある。                     


 小学校の四年生の時に学校の帰り道、悪ガキ数人に囲まれて「ワッワッわた わた 私 な~んだよ?どもりの里美 どもり どもりハッハッハッハ😄」悪ガキがいつものように里美をからかった。


 お転婆の里美は、「な な なによ~豚どもが~!」と言い返している。


 その時ボスの明が「何を――!よくも!」と里美を押し倒した。                             


 その時に、里美は石垣から落ちて眉間に十針も縫う大怪我をしてしまった。


 ボスの明は密かに可愛い里美の事が好き?まだ子供過ぎてハッキリ分からないが?ともかく気になる存在。


 その為わざと心にもない意地悪をしていたのだった。


 子供たちのチョットした喧嘩で、里美は取り返しのつかない傷を負ってしまった。


 ひと頃は、里美の両親は「人の大切な娘を(どもり)だと笑い者にした挙句、大切な娘の顔に一生取り返しのつかないことをしてくれたな~許さない!」と徹底抗戦の構えだった。


 明の両親があやまりに行っても門前払い! 

 明も「とんでもない事をしてしまった」と毎日泣きはらしている。



 それでも中学に上がる頃には、前髪を下げていれば、殆んど分からないくらいに回復した。                       


 小学4年生の頃の事件以来、明は子分を引き連れ、里美の下僕となって二年間を過ごした。


「姐さんカバンをお持ちします。ホラチャッチャとお持ちせんかい!」子分にせっついている。


「姐さん車が危ないです。僕が盾になります!」と車の前に出て里美を必死にかばうのだった。


「止めてくれない!まるでヤクザみたい ウフフフ」


 そして…中学の頃から明と里美は付き合い出した。   

 明はスポ―ツ万能で野球部のキャプテン。高校一年生から甲子園に出場するほどのスポーツマン。プロからスカウトも来ていたのだが、三年生の晩秋 🍂 悪性リンパ腫であることが判明、半年後に亡くなってしまった。         


 (何故…?何故死んだの?あの時は、人生に絶望して後追い自殺しか考えられなかった。苦しくて苦しくて、思考回路をグサグサに刺し、何も考えられなくしようと幾度試みた事か!)


 家族が里美の異常に気付き、兄二人が付きっきりで見張っていたので大事には至らなかったが……。


 キヨシに、ここまでご執心なのかというと?実は亡くなった明が乗り移ったのか?と思う程明にそっくりなのだ。

 

 三十五歳まで結婚しなかったのも、明以上に愛せる人が現れなかったからなのだ。そして今明にそっくりなキヨシと秘密裏に、仕事抜きでの付き合いになってきている。


「キヨシあんな仕事辞めてくれない?」


「そんな事したら半殺しの目に合っちゃいますから」


「あなた私が十五歳も年上の女だから、そんな事言っているんでしょう?」


「違うんです!僕はあの~~?その~?」


「一度も身の上話聞いた事ないわね~?話してよ!」


「それが……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る