第11話 母は何処に





 一九六〇年のまだ肌寒い春先、いとはもうすぐ五歳、キヨシは三歳、みよはまだ赤ちゃん。


  小森と竜二は美しい女を無理矢理さらって行こうとしている。

「おい姉さん!旦那と話はついている。可愛そうだが今日限り、ここの生活もおさらばだ。な~にこんな生活より遥かに贅沢が出来るさ~」


「いっ嫌です!子供達を置いて行くなど出来ません😭」


「さっさと用意しな!」


「お許しください!お許しください!」


「このアマ!痛い目に合いたく無かったらさっさと車に乗んな!!!」


「ワァ~~ン😭ワァ~ワァ~~ン😭おかあ行かないで~!」


「お許しください!お許しください!」


「ええ~い!うるさい奴だ、お前は売られた身だ、観念しな!」


 おかあを殴る、蹴る、余りの暴力に立つ事も歩く事も出来ない。


「綺麗な女だから……顔だけは傷つけるな!」


「はい分かりました。親方」


 おかあは無理矢理小型トラックの荷台に乗せられ、三人の子供達と引き裂かれ、半狂乱になっている。


「やっ止めて!止めて!!」

 

 負傷を負っているにも関らず、荷台から身を乗り出して…… 。


「いと~キヨシ~みよ~!」と叫んで懸命にトラックの荷台から飛び降りようとししている。


「コラ~このアマ!ちゃんと乗ってろ!」


 そしてまたもや殴る蹴るの暴力…その時トラックが、勢い良く発車。


「ああああ……いと~キヨシ~みよ~!」おかあは、泣き叫んでいる。


  トラックはどんどん進んで行き「おかあ行かないでくれ~!」


「ワァワァ~~ンおかあ!」


「おかあ~おかあ~行かないで~!」   


 年端もいかぬ三人の子供達も、気が狂わんばかりに泣きながら、無我夢中で転んでも、足や膝は血だらけになっても、必死にトラックの後を追いかけている。


そして見えなくなってしまった。



 🔷🔶🔷

 一九五五年頃から一九七〇年代にかけて高度成長期に突入——


 都市開発が進み、山々も開拓が進み居場所を失いつつあった「サンカ」 。段々食べるものにも事欠く日々…… そんな中、小森達に「どうしても…お前の女房が欲しい。その代わりに大金を弾む!」そう懇願された。


 父親のゴロウは、大金に目がくらみ女房を売り飛ばした。


 🔷🔶🔷

「おい年は幾つだ!」


「ハッキリ分かりませんが?大体二十八歳ぐらいだと思います。」


実は…「サンカ」独特の言語があるらしく、話す事が出来ない人も少なからずいる。 だが、小森と竜二はサンカ言語は少なからず理解できる。


 それはそうだろう。あしげく通っているので……。


「六本木は、若手ホステスが多いが?銀座は格式や品位が大切だ。お前くらいの年齢が一番良い。顔立ちは中々品のある顔立ちでスラリと和服の似合いそうな中々の器量。明日からお前の器量なら銀座で仕事だ!な~に酒の相手さえすればお金も?美味しい食べ物もたらふく食べさせてやる!また、その内…子供達にも合わせてやるから頑張りな! 名前は何て言うんだい?アッ名前なんてあるか~?まあ……お前は、明日から『カタカナ』でヨシ子にしよう!書き易いから!また美人女優も多いし、だからヨシ子だ。分かったか?」

 ※あの当時の美人女優ヨシ子★山口淑子(李香蘭)、三田佳子、佐久間良子、香山美子等


 おかあは、いかにも極道にどっぷり浸かった目付きの鋭い形相の親方に、どうなるのか、恐怖で押し潰されそうだ。

 子供達と引き裂かれ、そして…このような極道の世界に引きずり込まれ恐怖と、引き裂かれた我が子を思い涙が止まならない。 涙を見られないように顔を手で覆って泣いている。


 そして…ヨシ子は、夜の蝶として働き出した。


 🔶🔷🔶

 最初は、話す事もたどたどしい(こんなんで務まるの~?)といった感じだったが、みるみる話し方も上達、あっという間にお店のナンバー1に登り詰めた。


それでも眠りにつくまでは、布団を被り物音を立てないように子供達を思い泣き暮らしている。


同じお店のホステスとは、同部屋のアパートでの二人住まい、聞こえないように布団を被りすすり泣きの日々……

一方の子供達は?



 ※サンカ(山窩)は、日本にかつて存在したとされる放浪民の集団である。少数民族のように民族の区別があるのではなく、賤民「制度上、最下層の身分に定められた人民。特に、売買された一種の奴隷(どれい)」。多くの土着日本人が労役に耐えられず、山地に逃げて住んでいたのが起源であり、明治期に初めて山地に住んでいる貧困な日本人集団を警察がサンカと呼んでいた。本州の山地に住んでいたとされる。聞くところによると、近年(40~50年前)まで存在していたとも言われている。また…今現在も…日本のどこかを漂っているかもしれない……。


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