第15話 推しと両想い 2

「なんか飲み物淹れてくるか。そしたらちょっとは落ち着くだろ」


 落ち着くかなあ……無理だと思うんですけど。


 よいしょ、っと言ってキッチンに向かったウァサゴちゃん。


「私も手伝う!」


 勢いよく立ち上がってウァサゴちゃんを追いかけるオルニアスちゃんの背中を見つめていたら、

「あっ、雨んだね」


 グザファンちゃんの声につられて外に目を向ければ、外の世界はすっかり晴れていて。


 地面や草花を濡らした雨粒たちがオレンジ色に輝いていた。


「そうそううちね」


 突然アザちゃんが立ち上がって庭に面した大きな窓を開けた。


「紫色のね『ライラック』が咲いてるの。咲ちゃんなら……?」


 知ってる? たしかに知ってるよ。毎日夢に出てくるから。


 でもなんでそれをアザちゃんが知ってるの。


「思い出して」


 彼女が振り返った瞬間、強い風が吹いた。


 その風はカーテンを、私たちの髪を揺らすと共に、

「この匂い――」

 ライラックの甘い匂いがふわりとカラダを包み込んだ。


「同じだ」


 あの日、お姉さんたちと出会った公園で咲いていたライラックの花。


 場所は違うけど匂いは同じで。


「咲ちゃん、アザが箱から出してあげる」


「どういう意――」


 今まで見たことのない妖艶ようえんな笑みを浮かべたアザちゃんを不思議に思いながら、私の思考はTVの電源が切れるように闇へと落とされた。

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