第13話 天使たちの家 3

「そっ……そんなこと、ない。だって本当に会えたから」


 心臓から血を流しながら必死に言えば、

「良かった。ふふふっ」


 あ……もうダメです。


 久しぶりの推し。


 しかも供給過多。過剰摂取で頭が真っ白。


「はいはい、玄関でイチャイチャしてないで……ほら、タオル」


「グザちゃんサンキュー」


 傘を外に置いて、アザちゃんに手を引かれて家の中に入る。


「お話しする前にお風呂入った方がいいよねえ、これ」


 アザちゃんがタオルで私の頭や肩を拭いてくれながら言った。


 なんですかこのサービス。


 いいんですかね。


 アイドル時代なら確実にお金が発生しているイベントですよ。


「そうね、ちょっとお湯溜めてくるから待ってて」


 ……ん、待った。


 これから私、推しの、推しが使っているお風呂に入るんですか。


 マジで?


 考えただけで顔が真っ赤になりそう。


 というか、もうなってるんでした。忘れてました。


 もうどうしたらいいのかわからなくてフリーズした私は、オルニアスちゃんにコンビニ袋を奪われて、ラハシュちゃんが追加で持ってきたタオルでみんなから応急処置的にカラダを拭かれたのでした。


 その時間はこれまでの孤独の総量を少し減らしてくれるぐらい、幸せに包まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る