第12話 再会 2
「アザたち、意外と近くに住んでたんだねえ。あっ、もしかしたら今までどこかですれ違ってたかもしれないね!」
「そう……だね」
もしそうだとしたら、絶対気づかないはずがないけれど。
最近の私は自分のことも、他人のことも興味がなかったから気がつかなかったのかもしれない。
「というか、こんなにびしょ濡れでどうしたの?」
「それは、えっと……」
家族が殺された。
会社がなくなった。
上司が放火犯だった。
私は生きる気力をなくして、だけど、アザちゃんに会えると信じてなんとか生きてきた。
なんて。
こんなこと言っていいのかな。
奇跡のようなこの瞬間を、私の重い話で闇に包みたくない。
黙って俯いた私に、
「ねえ、辛いことがあったならアザが話を聞くからさ。
「え?」
推しの家に?
思わず顔を上げると、天使のように柔らかく微笑んだアザちゃんの顔が目の前にあった。
「うん。それに、このままだと風邪ひいちゃうし」
そう言って差し出された左手。
ついて行っていいのだろうか。
私がアザちゃんにガチ恋してるって、彼女はしっているはずなのに。
それでも私を救ってくれようとしている。
「おいでよ」
迷う私に重ねられた言葉。
ゆっくりと上げた左手はアザちゃんに優しく握られた。
彼女の冷たい手とは対照的に、急上昇していく私の体温。
「私なんかが行ってもいいの」
けれど、私は臆病だから。
一歩を踏み出せない。
「勿論。アザはずっと咲ちゃんが見つけてくれるのを待ってたんだよ」
ぎゅっと握られた手。
温もりに満ちた言葉。
そっか。アザちゃんも私に会いたいと思ってくれてたんだね。
手を握り返して、彼女の目を真っすぐ見つめる。
それだけで気持ちが伝わったみたい。
「よしっ、行こっか」
少し小降りになった雨。
頷いて、私たちは歩き出す。
元オタク。
しかもガチ恋勢が推しの家に行くなんて、他のオタクに知られたら刺されそうだけどいいよね。
だって、ずっと私はアザちゃんに会いたかったから。
誰かに救ってほしかったから。
孤独の私を。
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