第11話 雨

「最悪すぎる……」


 久しぶりの外出。


 オレンジ色に染まる世界は、どことなく火事を思い起こさせて。


 俯いたままコンビニに入ってそのまま買い物を済ませた。


 そこまでは良かった。


 問題は、今。


「なんで土砂降りなのよ」


 夕日は雲に覆われ、滝のような雨が地面を殴る。


 傘、買うべきだよね。


 ビニール袋を片手に空を見上げる。


 うん、降り続けるな。


「でもまあ……どうでもいいか」


 生きる意味がなくっても、生きるにはお金がいる。


 家族の後を追ってもいい。


 でも、アザちゃんたちに会いたいから。


 彼女の言葉を信じているから、生きるの。


「よし」


 働く気になれないから、当分無駄な出費は避けたい。


 私がとるべき選択しは一つ。


 信じられない勢いで降ってくる雨の中へ足を踏み出した。


 けれど、

「やっぱ傘買うべきだったかなあ」


 突然の雨に鞄を傘代わりにして走っていく人。


 屋根のあるお店で立ち往生している人。


 そんな人々とは対照的に、視界も聴覚も雨に支配されながらゆっくりと歩く私。


 スマホや財布はコンビニの袋に入れてしっかりと持ち手を結んでいるから、多分濡れない。


 カラダだって濡れたってどうでもいい。


 そもそも雨自体、嫌いじゃないし。


 でもさ、雨って気分を憂鬱にさせるんだよね。


 どんどんマイナス思考が頭を支配していくんだよね。


 どうして神様は家族を助けてくれなかったの、とか。


 どうしてアザちゃんたちは引退しちゃったの、とか。


 どうして、どうして信じているのにお姉さんたちに会えないの、とか。


 自分でも矛盾してるってわかってるけど、どうせ信じていてもアザちゃんたちには二度と会えないんだろうな、とか。


 考えたってどうしようもないことが、次から次に頭を駆け巡る。


「あーあ、会いたいよ。アザちゃん」


 私を助けてよ。


 私を、どっか遠くに連れて行ってよ。


 お願い。


 なんてね。


 こんな願い、誰も叶えてくれないんだから。


「咲ちゃん」


 いつの間にか足は止まっていた私に、後から差し出された傘。


 この声は、まさか。


 ドクンと強く脈打った心臓を押さえながら、振り返る。


「ほら、また会えたでしょ」


 彼女の言葉は嘘じゃなかった。


 目の前にいたのは、雲を吹き飛ばすような笑顔を浮かべた大切な推しだった。

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