第4話 人生初のライブ 2/3

「はい、これ」


「なにこれ」


 ライブ後、同期から手渡されたのは、

「握手とチェキができる券! 私は沢山持ってるからさ、ついてきてくれた岩辺さんに譲ってあげる」


「成程」


「私は全員と握手するけど、岩辺さんはずっとアザエルちゃん観てたよね? だから一緒に並んであげるよ」


「え、バレてたの」


 この子は周りがよく見えているこだけど、まさかバレてるとは思わなかった。


「むしろバレてないと思った? ずっとガン見してたじゃん。『こりゃー恋に落ちちゃった』って思ってたよ」


 アザエルちゃんのレーンに並びながら、同期は笑った。


「因みに、アイドルにガチで恋をする人を『ガチ恋勢』と呼びます」


「ほーん」


 同期には全てお見通しだった。


 うん、ちょっと恥ずかしい。


 アイドルに興味ないって言ったの、初めてのライブで即落ちしちゃうなんて、私チョロすぎんか。


 頭を抱える私に、

「まぁまぁ気持ちはわかるよ。私も初めて見たときに心奪われちゃったもん……あっ、アザエルちゃんじゃないよ。グザファンちゃんね」


「そうなんだ」


「うんうん。アイドルを好きになるのに理由なんていらないしのですよ」


 無駄なドヤ顔に腹がたつけど、この子、こんな顔もするんだなぁ。


 知らなかった。


 会社ではいつも死んだ目をしているから。


 それはお互い様だけど。


「んじゃ、お先~」


 そう言って同期は、アザエルちゃんに向き合った。


 いつの間にこんなに列が進んでいたの。


 あっという間じゃん。


 そりゃお客さんが少ないから、当然といえば当然なんだけど。


 なんてことを考えていたら、ついに私の番が来てしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る