第3話 衝撃 2
結局私はこの後も連続でハグを選びました。
働き過ぎて、推しに会うのが久しぶり過ぎて、頭が上手く働かなかったんですよねー。
ポンコツすぎるな私の脳みそ。
なんて、落ち込みませんよ。
「うふふふ」
受け取ったチェキ。
そこに書かれた「お仕事がんばっ!」「愛してる♡」「咲ちゃんが一番大切なファンだよっ」などなどなど。
幸せすぎる。
嘘だとしても、推しに一番って言ってもらえるなんて幸せすぎてあの世へ逝ける。
いや、推しに会うためにまだ死ねないから生きますよ。
そう、このときまで幸せだった。
幸福感を胸いっぱいに抱えて、明日も仕事を頑張ろうって考えてた。
だけど、
「あの……SNSで発表しようと思ったのですが」
グザファンちゃんの言葉が合図だったように、チェキを撮り終えたメンバーたちが横一列に並んだ。
「え、なに」
今までみたことないぐらい暗い顔をしている。
ザワザワザワ。
周りのオタクたちも小声で何事か、と言い合っている。
「私たち」
再び口を開いたグザファンと対照的に、私たちは口を閉ざした。
一瞬の静寂の後、
「4月9日をもって……解散します」
「えっ?」
再び会場がざわつき始める。
「嘘でしょ」
「早すぎるって」
「なんで?」
オタクたちの言葉に答えることなく、彼女たちはただ頭を下げるだけだった。
その後のことはよく覚えていない。
「最後のライブについては、公式のSNSで後日発表します」
グザファンちゃんがそう言って、メンバーたちは会場から去って。
私たちオタクは呆然とその姿を眺めていた。
始まったものはいつか終わる。
推しは永遠じゃない。
そんなことわかってる。
でも、まさかこんなに早く推しとの別れがくるなんて。
係りの人に促されて会場を出て行くオタクたち、立ったまま動けない私。
異常にお金をつぎ込む私のことを知っている古参のオタクたちから心配されていたような気がするけど、ホントに覚えていない。
気づいたら会場の外に出ていたんだもん。
「アザちゃんたちがいなくなったら、私はどうやって生きていけばいいの」
後日公式SNSで発表された文章には、ライブの日時が記されていただけで、解散する理由については何一つ書かれていなかった。
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