紫色のライラック 2
「えっ、行っちゃうの」
再び泣き出しそうになった私を見て、お姉さんの1人が
「泣き虫さんなのね。うーん、それじゃあ特別な物を見せてあげる」
しゃがんで視線を合わせながら言った。
「ちょっ、貴女なに考えてるのよ」
「いいでしょ。こんな可愛い子、泣かせたくないもの」
他のお姉さんたちの言葉を無視して、
「今日のこと、内緒にできるよね?」
私の頭を優しく撫でてくれた。
「ぅん」
小さく頷いたら、バサッという音と共に
「わぁ……」
お姉さんの背中に姿を現したのは、真白な翼だった。
「ほんもの?」
「本物よ。それと、これは私からのプレゼント」
お姉さんは背中に手を回して、ブチッと羽根を1本抜いた。
「え!?」
「ふふふっ、ごめん。ビックリさせちゃった?」
「いっ……痛いよ」
「優しいのね、お嬢ちゃんは。大丈夫よ、全然痛くないから」
そう言いながら、お姉さんは私の手に羽根を握らせた。
「大切にしていれば、貴女は幸せに暮らせるわ」
「うん、大切にする!」
当時お姉さんが言っている言葉の意味なんてわからなかったけれど、力いっぱい頷いた。
太陽の光に照らされて輝く不思議な羽根を胸に押し当てながら。
「うん、いい子。それじゃあ……お嬢ちゃんはもう行きなさい。公園を左に出て、真っすぐ行けば、ママやパパたちと会えるから」
そっと背中を押され一歩踏み出したけれど、
「どうしたの?」
足を止めた。
振り返り、
「もう会えないの?」
「ふふふっ、大丈夫よ。また会えるよ」
「ホントに?」
「信じていれば、必ず」
一連の様子をガラスから眺めていることしかできない私は、いつもここで尻切れトンボで目が覚める。
カラダを起こして、ほんの少しだけぼーっとする。
もう準備しなきゃ。働かなきゃ。
目を擦りながらチラっと棚に目を向ける。
大してなにも飾られていないそこにある、異質な物。
ガラスケースに入れられた、あの日の輝きを失った羽根。
「嘘つき……信じていればまた会えるって言ったのに」
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