貴女が望む世界へ
佐久間清美
本編
開幕 大切な思い出
紫色のライラック 1/2
毎日、同じ内容の夢を見る。
旅行先で、家族とはぐれて、独り公園で泣いている小さい私。
そんな自分を、何故かガラスの箱に閉じ込められて、ただ眺めていることしかできない大人になった私。
グスッ……グスッ……。
ずっと泣いている私に、
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
声をかけてくれたのは、突然現れた5人組の女性の、1人。
彼女たちの姿は、ぼやけてよく見えない。
「嫌なことあったの?」
「ママやパパは?」
どんな質問にも首を振り続ける私に、
「ねぇ、見て。あのお花、キレイでしょ?」
相変わらず泣いている小さな私は、お姉さんが指さす方を見た。
そこには、木に咲いた可憐な紫色の花々。
「……あっ」
「ね、綺麗でしょ?」
小さく頷いた私は、その花の美しさに目を奪われて涙が止まっていた。
「あれはね、ライラックっていうのよ」
指をさしたお姉さんとは別のお姉さんが言った。
「ライ……ラック?」
「そう。とってもいい匂いがするのよ、近くに行ってみましょう」
差し出された手を恐る恐る握れば、
「わっ」
私を抱きかかえて木に近づいた。
「この方が、よく嗅げるでしょ」
ふふふ、と笑ったお姉さんはとても楽しそうだった。
「うん……あっ、甘い」
「そう、甘い匂いがするの」
「すごい、すごいね!」
無邪気に騒ぎ始めた私を、お姉さんたちは優しく見守ってくれた。
木の周りをぐるっと回ってくれて、一緒に笑ってくれた。
夢のような時間。
けれど、長くは続かなかった。
「……ぃ……さ……
遠くで、私の名前を呼ぶ声がして。
「そろそろ行かなくっちゃ」
お姉さんは私を地面におろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます