第2話 ホーリーアーク後編

『ホーリーアーク・オーバーロード!!』


 その目は金色に輝き、黒と白の装甲は金色に光、右手はオレンジ、左手は蒼、全身を覆うはずの赤き光は、最小限に足だけを覆う。

 そして首を覆うマフラーは深紅に輝きながらたなびく。


「これが本当の最期の戦いだ。」


「ほざけ、もう世界は、変貌を遂げるのだ!!」


「お前が見る事はないさ。」


 己れの中の、力が溢れていくのと同時に、同量の物以上の力が失われて行くのが解る。


 それは、自我?生命力?…どうだって良いさ。


 ゾディーアークの分身達からの攻撃は、まるでスローモーションの様で、逆に時間がない俺に焦りを与える。


「来るなら、全部で来い!!」


 その言葉に反応するかの様に、群がる分身達、多少の攻撃などどうでも良い、全てを討ち滅ぼす!!


 痛みなど、今の時間に比べれば圧倒的に軽い!!


「消えろ!!ゾディーアークから出来たゴミども!!」


 分身達の触手が、鉤爪が、俺の頬を腕を抉る。


 俺は、触手を掴み、引き裂き、砕き、吠える!!


「邪魔だーーー!!」


(落ち着け親友。)その時、俺の頭の中に懐かしい友の声が聞こえた気がした。


 いや、聞こえた。


(周りを良く見ろよ、じゃなきゃ、勝てる戦いも勝てないぜ。)


 …大地。


(俺からの最後のプレゼントだ、頼むぜ親友!!)


 左手、大地からの力を感じた。


 蒼く力強い力、俺はそれを振り抜く。


 周囲の敵が一気に殲滅される。


 蒼き刀身の剣が腕にあった。


(騎士の武器が盾だけって、しまらないだろ?)


 大地…。


(コレが終わったら、また、みんなで遊ぼうぜ。)


「あぁ、約束だ。」決して叶うことのない約束。


 ただ、決意の刃を腕に前に進む!!





(まったく、兄さんは…無鉄砲は僕の役割だったよね。)


 ソラ。


(でも、兄さんのおかげで力の使い方が良く解るよ。)


(その最適解って奴が。)


 力が今までと違い、スムーズに流れていく。

 力の入る時にだけ、加速がかかる感じだ。


(兄さん…僕と兄さんの力が相性が良いって言われて嬉しかったよ。)

 そうか?俺はずっと思ってたんだけどな。


(…じゃあ、兄さん後は頼むよ。)


 任せろ!!


 加速、反転、飛び、足で払い、剣で断つ!!


 全てのスピードが今までとは段違いだった。


 思うがままに、

 体が動く。


「おぃ、何処がビースト・アクセラレータだ。」


「ビーストの部分が抜けてるぞ!!ソラ!!」最強じゃないか、こんなもの!!


「…ソラ?」…そっか、いったのか。


 頬を伝うのは、返り血か、血の涙か?


 赤き光は紅の閃光となりて、闇を断つ。


「消え去れ!!ゾディーアーク!!」


 本体の前まで、たどり着いた閃光は大きく剣を振りかぶった。


「くっ、盾になれ!!私を守れ!!私は…。」それがミスター・ゾディーアークの最後の言葉となった。


 ゾディーアークの前で盾になろうと迎え撃つ分身達もろとも、剣を一閃する。


「倒した!!」しかし、ミサイルは止まらない。


 激しい地響きと共に、飛び出そうとしていた。





「まずい、動き出したミサイルを地上で壊して大丈夫なのか!?」


「くっ、一か八か!!」全ての力を、剣に込める。


(待ちなさいよ、慌てん坊!!)カイリ!?


(一か八かに、全てを掛けて失敗したらどうするのよ!?)

「でも、他に方法が…。」


(出来るわよ、私と貴方なら。)


(考えるのは後、結果を聞くのも後、私の事を信じるなら、早くミサイルまでたどり着いて!!)


「信じられるかだと…当たり前だー!!!」


 ホーリーアークは、光となって飛び立つミサイルに剣を突き刺す。


 そのまま、吹き飛ばれそうになりながら、必死に耐える。


(このまま、成層圏まで、その間に私が解析する。)

(貴方のクロムハートの力を貸して!!)

「いくらでも使え、壊れるまで使え!!」

 身体中が軋む、痛む、だからどうした。


(ごめんね、アルト。)カイリの声が胸に突き刺さる。


 謝るな。


 お前を殺した俺に謝るな。


 俺は…。


(アルトといっぱい遊びたかったなー。)


 あぁ、俺も。


(アルトといっぱい色んな事したかったなぁー。)


 あぁ、俺も。


(アルト…大好きだ…よ…。)


 あぁ、俺も。


(解析終了。)


 カイリ…。


「待っててくれ、すぐに行くから。」


 これだけの質量を一気に分解する。


 しかも、何か起こる前に一瞬で、カイリの謝った理由が解るよ。


 これは、無茶苦茶だ。


 そして、その無茶を可能にしなきゃいけないのがヒーローなんだ。


 想いを力にする。


 それこそがクロムハートの力。


 大丈夫さ、みんなの想いが、胸にある。


 みんなの祈りが胸にある。


 大地、ソラ、カイリとの楽しかった思い出、苦しかった思い出、嬉しかった思い出。


 戦いの中、散った人達、生き残った人達の想い。


 全てが、この胸にある。


 俺は、悪断つ聖なる光…。


「ホーリーアーク。」


 俺は、全てを力を使い叫んだ。


「ブレイク!!」


 ミサイルが一瞬にオレンジの光に変わる。


 大地、ソラそしてカイリ見たか?


 これが物語の結末だ。



 成層圏を漂う俺は、ゆっくり漂う。


 俺はこのまま漂うのか?それとも落ちて行くのか…。


 疲れた…。


 そして、俺は意識を無くした。






 チチチッと鳥の鳴き声が聞こえる。

 そよ風が頬をくすぐる。

 ゆっくり目を覚ませば、そこは知らない風景だった。


「ここは、どこだ?」誰も答えてくれないか…。

(回答、現在解析途中です。ここは地球に似ていますが、現在の所該当無し。)カイリの声に似た声が僕に教えてくれる。

「カイリなのか?君は?」


(回答、私は電子精霊、貴方をサポートする為にいます。)


 電子精霊?何だ、それは?


 疑問を口にしようとした時だった。


(警告、ここより一キロ二百メートル離れた場所にて、戦闘音。)


 戦闘音?


 俺は、ゆっくりと立ち上がった。


 武装は解けている。


 体をチェックしたかったが、そんな暇は無いか?


「電子精霊と言ったな?案内してくれ、戦いになっているんだろ?」


(映像を映します。)


 俺の目の前に、映像が映し出される。


 数十体の小柄な緑色の肌、頭に小さな角を生やした化け物が、馬車と護衛らしき鎧を着た者達と戦っていた。


 護衛は、善戦していたが、多勢に無勢。


 段々と追い詰められていく。


「急ぐぞ!!」


「武装は可能か!?」


(現在、制限がある能力もありますが、充分、戦闘可能でしょう。)


 俺は、走り出した。


 ここが何処でも構わない。


 俺が俺である意味を示すのみだ。


 我は闇断つ聖なる光


「ホーリーアーク!!」


 閃光が、草原を走って行った。


 その紅きマフラーに異世界の風をいっぱいに受けて。


聖なる光ホーリーアークが悪を断つ!!」









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る