追放
駆け足で家に向かうと村民達が灯りを持って家の前にいた。
「え?」
村民達が家の前にいるなんてことは今までなかった。
何が起こっているんだ?
「アルダ、お前ルナシャで何をしていた?」
アルダというのは僕の名前だ。
だがアルダなんて呼ばれる事はほぼない。
大体『忌み子』とか『お前』だ。
「えと……特に……なにも」
そう言うとそこにいた人たちの表情が変わる。
「嘘をつくなぁ!」
「そうだそうだ!」
「この怪物が!」
怪物か……言われた事なかったな。
そんな事を思っていると家の扉がガタッと開いた。
罵声は止み、村民達は開いた扉の方を見る。
「…………父さん……」
父さんがそこにはおり、少し怒った表情で村民達を見ていた。
「何をしているのですか!?」
と村長に言う。
「お前の息子は怪物だ。忌み子よりも悪いのをあの女は産んでいたんだよ」
「リザを侮辱しないで頂きたい!」
リザというのは僕の母の名前……らしい。
父さんは母さんの事をあまり話してくれないから本当にそうかは分からない。
「いいか、お前の息子は夜な夜なルナシャに潜り、冒険者様の遺体に何かしておるのを娘が目撃しているのだ。そして今日ルナシャの二層にサイクロプスが出たそうだが、アルダは一人で倒したらしい」
村民達は信じられないという顔をしながらこちらを見る。
せっ、正当防衛だと思うんだけどなぁー?
現に殺されかけたしさ。
「ただ家の息子が強いというだけではないですか」
「いや、サイクロプスを一人で倒した者は英雄となるかはたまた怪物となるかだ。だがこいつは忌み子! 英雄か怪物かどうかは一目
そう言って俺を指さす。
……結構失礼ではなかろうか?
本人を前にしてこうも言われると流石に傷つく。
「村長殿、何が言いたいのです?」
「アルダをこの村から追放するのだ」
「ッ!?」
父さんの表情が一瞬で変わり、村長のすぐそばまで信じられない速度で迫る。
その勢いは今にも村長の胸ぐらを掴みそうな程だ。
「な、なんだ!? 間違った事は言ってないだろ!」
「そうだ! 怪物なんかとっとと追い出せぇ!」
「やはり殺さなかったのが間違いだったんだ!」
次々と村民が村長の言うことに賛同する。
僕は泣きそうになった。
もしかしたらいつか、皆んなと仲良くなれるかもしれないと思っていたのに、追い出せなどと言われてしまったら仲良くなれないからだ。
「…………アルダ……」
父さんが近づいてくる。
「すまない」
ただそう一言、悔しそうに、本当に悔しそうに、そう言った。
「大丈夫だよ、父さん」
涙を堪えて言う。
今泣いたら父さんまで泣いてしまうだろう。
そんなのは彼らに見せたくない。
「では、アルダよ。荷物を整えこの村から出てゆくのだ」
村長はそう言って村民達と共に立ち去った。
「……アルダ」
「大丈夫だって。俺はサイクロプスを……倒したんだから……」
ここで俺は泣いた。
父さんも泣いた。
村民達は見ていない。
あぁ、この家ともお別れなのか。
あぁ、村民達ともお別れなのか。
あぁ、この地ともお別れなのか。
あぁ、父さんともお別れなのか。
お互いが泣き終わったあと、家に帰り、身支度を始めた。
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