予想外の出来事

 ルナシャの一階層に降り立つ。


「ふぅ〜、今日は何人死んでしまっているのかな?」

 

 サイコパスな発言に聞こえるかもしれないが、冒険者はいつも死と隣り合わせの職業の為、この世界では全くもってサイコパスな発言ではない。


 一階層に死体はなかった。


 死んでいる人は少ければ少ないほど良い。

 死は悲しい事だと思うし。


 二層に降り立ち、辺りを見回す。


 ……倒れた人が一人遠くに見えた。


「いた」


 近づいてまず生きているかどうかを確かめる。


「……脈が無い……か……」


 脈が無い。すなわち死んでいるという事だ。


 亡骸に手を合わせる。


 そしてそのダンジョンの壁際の方にシャベルで穴を掘る。


 ガリッと音がして、地面が割れる。


「うーん、やっぱ硬い」


 地面を砕いているのだから当たり前ではあるが、他の地面よりは硬い。


 ザクザクと掘り進めて行き、亡骸が入れる程の穴を掘った。


 亡骸をそっと持ち上げ、穴の中に入れて埋める。


 そしてその上に背負ってきた墓石を置こうとしたが……


 ズシンと空間が揺れた。


「なっ、なんだ?」


 一定の間隔で揺れる。

 ……何かが迫って来ているようだ。


「何が迫って来てるんだ?」


 走ろうにも空間が揺れるせいで上手く走れない。


 そして振動の元は徐々に姿を現した。


「…………サイクロプス……」


 一つ目の巨人が、そこにいた。


「なんで!? サイクロプスはこんな浅い階層にはいないはず……」


 サイクロプスはこちらを見つめたあと持っていた巨大な棍棒こんぼうを振りかざして来た。


「危っぶな!」


 すんでの所で避ける。

 

 あれに当たったらタダでは済まないだろう。


 手持ちにはシャベルが一本……勝てるのか? これ。


 無理な気がしてならないがどうにかしなくてはならない。


 逃げるのは不可能だ。

 一層ならまだ可能性はあったが、二層では上に登るという動作をしなくてはならない。


 登っている間はかなり無防備になるので、登っている間にグシャッとなるだろう。


 どうするか。

 逃げても死、戦っても死。


 僕も先程土の中に埋めた冒険者の様になるのだろうか?


 いや、絶対に同じにはならないだろう。


 あの棍棒の攻撃を受けたら原型も残って無さそうだ。


 だがそう簡単にやられるわけにはいかない。


 死にたくない。


「フゴォォォ!」


 雄叫びを上げながらサイクロプスが突っ込んでくる。


 ズシンズシンと空間が揺れまくる。


 だが何とか立ち、シャベルを両手で持って構える。


「フゴッ!」


 棍棒が振り下ろされる……が、もう振り下ろされた場所にはもういなかった。


 振り下ろされる寸前に壁を蹴ってサイクロプスの着ていたボロ布に掴まったのだ。


「ウガァァ!」


 ボロ布に掴まっていることに気付いたサイクロプスは体を揺らして僕を落とそうとしてくるが、何とか掴む。


 そして背中に回って頭の上に登り、シャベルを脳天に突き刺した。


「ウガッ」

 刺さった場所から血が飛び散る。


 地面に降りて倒れたサイクロプスを見る。


「…………倒せた……」


 サイクロプスは危険度がかなり高めの魔物だが、そんなやつを僕は倒した。


「ふぅ、さっさと墓を作っちゃおう」


 倒したのはとても嬉しかったが、僕はあくまでも墓を作りに来た事なので、先程の冒険者の元へと向かって、墓石を置いた。


 ついでにサイクロプスのお墓も作っていたら、朝になっていた。


 まずい、急いで戻らないと村民になんて言われるか分からない。


 僕は駆け足で家に戻るのであった。

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