第4話 姉ムーブクソウザ女は帰れ

「準備オッケー。聞こえるー?」

『オケオッケー。久しぶりだね〜煌莉』


 画面の向こうから、とても明るい女性の声が聞こえてくる。

 彼女の名前は照光てるみつあらた。輝亜が大学で所属しているサークルの元先輩。現在24歳、独身。僕が唯一『如何なる理由が無かろうとも、ボコボコにしていい』と思っている人である。


「久しぶり。確か5ヶ月ぶりくらいだと」

『そうかぁ、そんなにかぁ。おいおいおい、新お姉ちゃんは煌莉がしばらくかまってくれなくて悲しかったよお』

「黙れクソババア」

『もぉ、そんな言葉使っちゃダメでしょ。本当は私のこと大好きなクセにぃ』


 ……これ、久しぶりにかまってもらえたからって浮かれてるな。少しイタズラしてみるか。


「そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだなぁ↑」

『え、待って煌莉それどうい』


 僕は通話アプリを切った。すると直ぐ様スマホに電話が架かってきた。新からだ。


「……もしもし」

『き、ら、り〜。どうしてこんなことしちゃうのかな〜?』

「あんたがウザいから。以上」

『他のみんなにはこんなことしないくせに、どうして私にだけそういう態度取っちゃうのよぉ』

「あんただから。これで十分?」

『いや、平仮名6文字で納得出来る訳ないでしょ』

「新になら、どんな態度とっても大丈夫だと思ったから」

『そんなに舐めたら、ダメッ、イ』


 僕は無言で電話を切った。これ以上はアウトだろ。全年齢対象で会話してくれ。

 ああ、この感じじゃ、埒が明かないな。正直、新のウザさを舐めていた。これはもう僕が折れるしかないっぽいね。

 僕は再び、通話アプリを開き、新へ繋いだ。


「あ、新。その、これはちょっとイタズラしたかっただけで、別に新のことが嫌いって訳じゃないから」

『んも〜煌莉ったらツンデレなんだから。そこが可愛い!!』


 ……うん、やっばこいつうぜぇ。


   ―――――――――――――――――


「よしっ、7キル目」

『えっ、煌莉早くない!?』


 フッ。或ーニャ、よゆうのえみ。

 ……おっと失礼。これじゃあ読者の皆さんは、どうしてこうなっているのかわからないね。

 今、僕と新はサバイバルゲームをプレイしてるんダ!。

 現在のキル数は、僕が7キル。一方で新はたったの1キル。

 久しぶりにやってみたけど、そこまで腕は鈍ってないみたいだな。それに比べて、新は恐ろしいまでに下手になっている。前とか8キルとかよくあったし。


「新、ざこ」

『ドストレートな悪口来たァ!?』

「貴公には、私と共にこの電脳空間にて戦闘行為を行うに足りる実力がないと判断いたしました。速やかにこの場から去ることをおすすめいたします」

『今度は回りくど過ぎる!』

「要はぁ、つよつよキラキラの新のほうが好きだなあってこと。今の新はよわよわゴミカスって感じぃ〜」

『……調子に乗ってると次から遊んであげないからね!』

「別に大丈夫だし。むしろこっちの台詞だし〜」

『あ゛ー、この子全然可愛くない!可愛いけど!』

「ニャハハハハ」


 まあ、ここまで僕にかまってくれるのはすごく嬉しい。

 中学校の時は、あんまり友達いなかったし。輝亜は大学あるし、仕事もあるし、日曜日くらいしかかまってくれない。輝亜の知り合いが家に来ることもあるけど、それも滅多にない。

 でも、新はよく僕の遊び相手になってくれた。

 ……あんた暇なんか?


『お、敵はっけ〜ん』

「本当だ。4人、交戦中か」

『突撃するよ、煌莉!』

「待ーて待て待て」


 新は僕の言葉を無視して、戦場に直行した。

 僕はどうすれば……。

 おや?あらま偶然こんなところにロケットランチャーが落ちてるじゃないですか。ここは派手に一発!!


「まとめて倒すけどいいよね?答えは聞いてない」

『え、待って煌莉どういうい』(本日2回目)


 綺麗な爆発音と共に、画面上5回分キルした事が表示された。そう、である。


『煌莉〜。私まで倒しちゃってるよ~』

「残り8人、最後まで生き残ろうとする煌莉。そして、まとめてロケランでキルされた5人。急げ、或音煌莉!新の命は君に懸かっているのだ!『新死す……』」

『ちょ、ふざけてないで助けて!』

「ハイハイ」


 新を復活させ、戦利品を回収。安全な場所へ移動した。


「ホントさ、いい加減にしてよ新。一体これで何回目なの?」

『ごめんね、煌莉。おっぱい揉む?』

「揉まないし。ていうか、どうやって揉むんだよ」

『今度会った時とか。……もしかしてお尻の方が良い?』

「ちょっと待ってて。今、ロケランの玉リロードするから(圧)」

『ヒェ』


 ふぅ。軽く圧かけたし、しばらくは慎重に行動するだろう。


『そういえばさ。煌莉、高校生になったらVTuberになるって言ってたよね』

「うん。そのつも……、あっ」

『あれ、どうかした?』

「い、いや何でもない」


 ど、どうしよう。ついさっきスカウトされて、今年の5月からリア:Life3期生として活動を始めま〜す、ってことになったんだけど。新にどう伝えよう。っていうか、こういうのって勝手に事前に情報公開しちゃいけないやつだよね。確か今日もらった書類にもそんなこと書いてあった気がするし。


『私、煌莉とコラボ配信するの、すごい楽しみなんだ!』

「う、うん。僕も楽しみだよ」


 あー気まず。どしよこれ。

 そういえば、度々忘れがちだけどこの姉ムーブクソウザ女の新もまた、かなり有名なVTuberなんだよなぁ。

 因みに、新と輝亜は大学のサークルの先輩後輩の関係で、輝亜がVTuberを始めたのはこいつのせい。

 なんか、サークル内で新を含めた卒業生の送別会を行っている時に、ポ○カで(奇跡的に)輝亜が負けて、バツゲームに裸踊りかVTuberになるかの選択を迫られたらしく、それでVTuberになるを選んだらしい。

 誰得だよそのバツゲーム、と思うだろうけど、これが結構ウケたらしい。ソラの初配信をみたらわかるけど、動きも喋りも結構ガチガチで1分に4回は噛んでる。まあ、これがしょうがないことだった。この配信、サークルの仲間に見守られながら、彼らから課されたミッションをクリアしながら行う、公開処刑配信である。

 輝亜はこの時のことを根に持っているみたいで、新が僕に接触するのを相当嫌悪している。

 大丈夫だよ輝亜。僕はこれ以上穢れないから。


『それはそうとして。煌莉、何か隠し事してるでしょ』

「……にょえ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る