塾長の秘密 その2
ホワイトボードに書かれてあった問題文の三角形を書き写すと、塾長が赤ペンで補助線を引いた。
「ここに補助線を引くと、辺ADとBDは同じだから三角形ABDは二等辺三角形となる。つまり、この円の面積から三角形ABDの面積を引けばよくて、三角形ABDの面積は……」
参考書を何冊か出しており、メディアにも度々登場している塾長の授業は分かりやすい。
授業の進度は今までよりも3倍は速く、次々に新しい問題へと進んでいく。
塾長の流れるような解説に耳を傾けながら、必死にノートを取り頭をフル回転させる。
40分の授業の間、一瞬たりとも気を抜けない。
計算式を書いたところで、塾長の手が止まった。
「では、円の面積だが、3.14×7はいくつかな、堀口さん」
名前を呼ばれ視線を、片方の唇をわずかに上げたサディスティック笑みを浮かべている塾長へと向けた。
4かける7は28で、7と2を足して……
「21.98です」
「遅い!」
塾長の叱責の声が響き渡る。
「円周率の倍数は覚えておくようにと以前言ってよね。いちいち計算していたら、本番では時間が足りない」
「すみません」
立ち上がって、両手をお腹に当て90度に頭を下げ許しを請う。
「堀口さんは気合が足りないようだね」
塾長はポツリとつぶやく。
やっぱり許してはくれなかった。
慌てて塾長室の後ろへと向かい、「合格」と大きく書かれてある野球のバッドくらいある巨大なハリセンを手に取り戻ると、塾長に渡した。
「塾長、愚かな私に気合の注入お願いします」
「何回?」
ハリセンで叩かれる回数は自己申告制だ。でも、少ない回数だと「そんなんで、足りるのか」と怒られてしまう。
怒られないギリギリのラインを読む必要がある。
「7回、お願いします」
「ヨシ!」
先ほどの問題にかけて7という数字にして正解だったようだ。
スカートをめくり下着があらわになった状態で、お尻を突き出すと塾長は撫でまわし始めた。
「ハリがあっていいお尻だね。いい音がしそう。じゃ、行くよ」
―——バシーン
大きなハリセンの音ともに、お尻に激痛が走る。
その痛みと、スカートを自らめくりあげる恥辱に、何度されても涙目になってしまう。
「い~ち、に~、さ~ん……」
塾長の楽しそうなカウントを聴きながら、早く終われと祈る。
「ありがとう、ございました」
泣くのを必死にこらえて、ヒリヒリするお尻をさすりながら席に戻る。
左右の席に座る二人からは一瞬だけ同情の視線が向けられたが、塾長が授業を再開するとすぐに前を向いた。
40分の授業が2コマ終わると30分の休憩となり、その間に持ってきたお弁当を食べることになっている。
休憩中と言っても気は抜けない。
女の子らしくない振る舞いをすると、自分の席で仕事をしている塾長から注意される。
背筋を伸ばして脇を閉めて、箸使いにも気を配りながら少しずつ口へと運んだ。
お弁当を食べ終わると、次の授業が始まる前にトイレに行くことにした。
「ちょっとお花摘みに行ってくる」
漢字ドリルをみている二人に声をかけ席を立った。
塾長室を出て、ドアを閉めると思わずため息が漏れた。
トイレに入ると、ショーツをおろしてスカートをめくりあげてから便座に腰かける。
ここに来るまではトイレは立ちションで済ませていたので、それに比べるとすごく手間がかかる。
だからと言って、立ちションするわけにはいかない。
このトイレには隠しカメラが設置されているようで、立ちションしようものならすぐにばれてしまう。
以前、本田が立ちションがバレたときには、トイレで土下座させられたうえに頭を便器に押し付けられていた。
トイレから戻ると休憩時間が終わり、小テストが配られた。
運命共同体の他の二人も、この時ばかりはライバルに変わる。
小テストといっても、レベルが高い問題がズラリと並んでおり、毎回半分解ければいい方だ。
問題の難易度を見分け、解けそうな問題を選び解答していく。
「はい、そこまで」
制限時間の30分はあっという間に終わり、テスト用紙が回収されると塾長がすぐさま採点に入った。
採点が終わると、塾長は点数を読み上げた。
「山下さん52点、本田さん48点、堀口さん47点」
わずかながらも最下位。ショックを受けている僕とは対照的に、他の二人は安どの表情を浮かべている。
「今から解説するから良く聞いておくように」
「はい」
塾長は小テストの問題の解説を始めると、鉛筆を手に取り板書を写していった。
◇ ◇ ◇
「じゃあな」
「うん」
授業が終わると、本田と山下は憐みの視線を向けながら帰っていった。
お母さんに補習授業があるからあと1時間後に迎えに来てと連絡を済ませると、スマホは塾長に取り上げられた。
「さあ、補習授業始めようか」
「はい」
「じゃ、まずは漢字の書き取りから」
一人取り残された塾長室に正座しながら、「静寂」「請願」「清掃」と先ほどの小テストで間違えた漢字の書き取りを始めた。
漢字の書き取りを20回を繰り返すと、塾長はカツカツとハイヒールの音を鳴らしながら背後へと回り込んできた。
「堀口さん、補習授業受けるのもこれで5回目だよね」
「はい」
水曜日と金曜日、週2回行われる小テスト。最下位の一名が教室に残り塾長と一対一の補習授業を受けることになる。
4月に特進クラスに入ってから10回小テストが行われたが、そのうち半分で最下位をとってしまった。
「堀口さんには期待してたのに、残念ね」
塾長は背後から覆いかぶさった。塾長の体から漂ってくる甘い薫りと、背中に感じる胸の感触。
伸ばされた右手は胸を撫でまわすと、左手は股間へと伸ばされた。
セーラー服を着ているといっても小学6年生の男子。
女優のような美貌をもつ塾長と肌を接すると興奮せずにはいられない。
「いけない子ね。女の子がこんなところ、大きくしちゃダメでしょ」
「でも、塾長が……」
「言い訳しないの。こんなものがあるから、勉強に集中できないんじゃないの?いっそのこと、切っちゃう?いい病院知ってるわよ」
スカートの中に伸ばされた左手で股間を撫でまわしながら、悪戯っぽく耳元でつぶやく。
ペロリと耳を塾長に舐められた時、興奮が最高潮に達し股間から液体があふれ出した。
◇ ◇ ◇
1階に降りると、保護者控室に母親が迎えに来ていた。
「お疲れ、しっかり勉強してきた?」
「うん」
母の問いかけに、力なく返事を返す。
母に通塾バックを渡し、その後ろをトボトボとついて歩く。
駐車場に停めてあった車の助手席に座ると、疲れが一気に押し寄せた。
車を走らせながら、母は言い忘れててごめんと前置きして話し始めた。
「夏休みに、塾長の別荘で特進クラスの合宿があるらしいのよ。締め切りが今日までだったから、海斗に相談してなくて悪いけど申し込んでおいたから。当然、行くでしょ?」
あの塾長と泊りでの合宿。何が起こるか、想像もしたくない。だからと言って、行かないという選択肢はなさそうだ。
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