男子校の姫 その2
春休み明けの始業式の朝、学校につくと直接教室にはいかずに保健室へと向かった。毎朝、ここで女子制服に着替えることになっている。
保健室のドアをノックすると、保健室の先生がドアを開けてくれた。
「おはよう。皆川君じゃなかった、皆川さん。髪もカットしてもらったのね。髪を整えてもらうと、女の子っぽく見えるね」
母の行きつけの美容室に事情を話して、男子にしてはちょっと長めだった髪をカットしてもらった。おかげで、少しは女の子っぽく見えるようになった。
「制服はあのロッカーの中に入れてあるから、着替えてね」
言われたロッカーを開け、制服を取り出し着替え始めた。スラックスを脱いでスカートを履いて、ネクタイを外してリボンを付けた。
保健室にあった鏡で確認すると、まあまあな感じだ。多分、キモくはないはず。
「思ったより似合ってる。かわいいよ」
保険の先生に褒められたところで、担任の先生が保健室に入ってきた。
「皆川、準備できたか?一緒に教室に行くぞ」
先生と一緒に教室に入った。教室に入ると、いままで騒がしかったのに静かにしてこちらを見ている。
「―――というわけで、皆川さんから女の子になりたいという希望があって、今日から女子の制服で学校生活を送ります。みんなからかったり、いじめたりしないように。じゃ、これから始業式があるから体育館に移動します」
クラスの人たちと話す間もなく体育館へと移動が始まった。移動中もみんなが興味本位でこちらをみるが、とくに何も言ってこない。「キモイ」とか「変態」とか、陰口をたたかれている雰囲気もない。
始業式が終わり教室に戻ると、1年の時も同じクラスだった川島が近づいてきた。
「皆川さん、次の授業まで時間あるし、ジュースでも飲みいかない?」
「えっ。あんまりお小遣いないし」
突然の誘いに驚き、1年の時にあまり話さなかったのに急になんで?と不審に思い、体よく断ろうした。
「いいよ。ジュースぐらい奢るからさ、一緒に行こう」
強引な川島に連れられて自販機のある、売店の方へと廊下を歩いて行った。先ほどと同じように、他の生徒から注目を浴びていはいるが、なんとなく気配がちがった。一緒に歩く川島の方に、羨望とやっかみの視線が向けれていた。
「いいな」とか「その手があったか」などと、コソコソ話す声が聞こえてくる。
授業が終わり昼休みを告げるチャイムが鳴ると、川島が再びこちらの方にやってきた。
「皆川さん、おごるから学食で一緒にご飯食べよ」
「川島、ズルいぞ。今度は俺の番だ」
誰が一緒に昼ごはんをたべるかで揉め始めた。みんな口々に一緒に食べよう誘ってくる。1年の時はひとり食堂の片隅でうどんをすする生活だったのに、急な変化についていけない。
「ウォッシャー!」
当たりくじを握り締めた向井が叫び声をあげた。
「さあ、皆川さん、行こう。何がいい?かつ丼?ラーメン?」
嬉しそうな顔で手を引っ張って、教室から学食へと歩き始めた。廊下を歩きながら学校へ行く間、向井は手を握りしめたままだった。そんな向井を、他の男子は羨望のまなざしで見ている。そして、向かいの顔は誇らしげだった。
ようやく、川島や向井など他の男子生徒が態度を急変させた理由に感づいた。女子のいないこの男子校で、女子モドキの僕を利用して恋愛の疑似体験を楽しんでいるようだ。
◇ ◇ ◇
女子高生としての生活を始めて1週間が過ぎていた。休み時間にジュースや学食を奢られる生活にも慣れてきた。
自分の立ち位置も分かってきた。一緒に廊下を歩くときは、恋人つなぎもするし、ときには腕を組んだりもする。そうやって、男子生徒の機嫌を取っていた方が上手くいく。
授業が終わり帰る準備をしていると、斎藤が話しかけてきた。
「皆川さん、帰りに一緒にゲーセン行かない?」
「ダメだよ。数学の課題しないといけないし」
「じゃ、スナバでコーヒー飲みながら一緒に勉強しよ。俺、数学得意だから」
「ホント?難しくて困ってたんだ」
教えてくれるという誘いに、思わずのってしまった。
浮かれている斎藤とは対照的に、初めてスカートのまま校外へと出てしまったことで緊張していた。はしゃぐ斎藤を見ていると、スラックスに着替えてくるとは言い出せずに、スカートのまま下校を始めた。
斎藤だけ行くなんてズルいぞと、他の男子数名も一緒に行くことになり、周りを取り囲んでくれているので、少しは気が楽だ。
学校近くのスナバに入り、当然ここも男子たちのおごりでカフェモカを頂いた。
「この問題どうやって解くの?」
「この問題はね、こうやって式を変形して・・・」
斎藤がノートに数式を書き始めた。自然と距離が近づいて、肩が触れ合っている。男子と密着するなんて今までだったら嫌に感じたかもしれないが、今となってはむしろ嬉しく感じる。
◇ ◇ ◇
「じゃ母さん、学校に行ってくるね」
「健太も最近、学校が楽しそうね」
女子高生になって2か月が過ぎた。以前は授業について行けず、友達もおらず学校に行くのが苦痛だったが、最近は学校に行くのが楽しい。
クラスのみんなは優しいし、分からないことがあればみんな優しく教えてくれるので、授業にもついて行けるようになった。
そのおかげで中間テストも赤点はなくなった。
「ほら、スカートの裾に糸くずついているよ。女の子なんだから、ちゃんときをつけないと」
「ごめん、じゃ、行ってきます」
最初のうちは学校についてからスカートに着替えていたが、一緒に登校したいという希望も増えてきたので、家からスカートで通学することになってしまった。
スカートで通学するのも最初のうちは恥ずかしく感じたが、すぐに慣れた。むしろ、いまではスカートの方が好きになってしまっている自分がいる。女子高生って楽しい。
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