転校先の清楚可憐な美少女が、一緒に遊んだ男友達だった件

 二宮高校入学式と大きく書かれた看板の前で、両親と一緒に記念撮影した。


「じゃ、僕は教室に行ってくるね」

「健太、お母さんたちこの後仕事だから、入学式終わったら一人で帰るのよ」

「わかってるって」


 まだ写真を撮りたがっている両親を残して、僕は1年3組の教室へと向かった。


「おう、前田か?覚えてる、ほら、小学校の時一緒だった、山本」

「山っち!?久しぶり!」

「お前、いつ日本に帰ってきてたんだよ」

「高校受験の時に一度は戻ってきたけど、家族で引っ越してきたのは帰国したのは先月だよ」


 前田健太は、電機メーカー勤務の海外勤務のため、小学校5年から5年間ベトナムに移り住んでいた。

 ベトナムでもネットで日本の漫画やアニメは見れたけど、3月に日本に帰ってきてみると、いろいろ変わっていることも多く浦島太郎状態だった。


「他に同じ小学校から、この高校に来た人っている?」


 クラスでは同じ中学だった生徒同士が早くもグループを作り始めていた。同じ中学校の知り合いのいない健太にとって、せめて小学校の時の知り合いでもいて欲しいと願った。


「もう一人いるのはいるけど」

「えっ、誰、誰?教えて」

「時期にわかるって。ほら、先生きたから俺は席に戻るわ」


 そう言い残して山本は自分の席へと戻っていった。僕も自分の席に戻ることにした。

 僕の隣の席には、色艶の良い長い黒髪の女子生徒が背筋を伸ばして座っていた。

 その美しい容姿にあっという間に心を奪われた。


「初めまして、僕、前田健太って言います」

、こちらこそよろしく」


 女子にしては少し低めな声で、口調も少し不機嫌な感じだった。僕の方は名前を名乗ったのに名前すら教えてくれず、清楚可憐な美人だけあってガードは堅そうだ。

 まあ、自己紹介タイムぐらいはあるだろうから、名前はその時わかるだろう。


 入学式が終わり再び教室に戻ってくると、案の定自己紹介タイムが始まった。

 出席番号順に立って、名前と出身中学校など自己紹介していく。


「前田健太です。親の仕事の都合でベトナムに行っていたので、同じ中学校の人はいませんが、よろしくお願いします」


 僕がベトナム帰りとわかると、一気にクラスが騒がしくなった。興味を持ってくれたようで良かったと、胸をなでおろしながら席に座った。


 そして、僕の隣に座っている女子生徒の順番がやってきた。名前を聞き洩らさないように、集中して聞くことにした。


「村尾春樹です。梅林中学校出身です。こんな格好していますけど、男子です」


 清楚可憐な美少女が男子であることに、クラス中の男子が失望の声をあげた。


「村尾春樹って、春樹なのか?」


 思わず、声を上げてしまった。村尾春樹、小学校の時一番の仲良しで昼休みには一緒にドッチボールしたり、放課後にはお互いの家を行き来してゲームしたりと遊んでばかりいた。

 そんな春樹が、ベトナムにいっている5年の間に、女の子になっていたことに驚いた。


「そうだよ、さっき『はじめまして』なんて言うぐらいだから、気づかなかったみたいだね。ひどいよ、あんなに仲良かったのに」


 春樹の泣きまねに、クラス中の男子から非難の声が僕の方へと向けられた。


「まあまあ、痴話げんかは後でやってもらうとして、次の人自己紹介お願い」


 先生の声で騒動は収まり、自己紹介タイムへと戻った。自己紹介が終わると、明日以降の連絡事項が伝えられ、入学初日が終わった。


 学校からの帰り道、僕の隣には春樹が歩いている。春樹の家とは500mぐらいしか離れておらず、必然的に帰り道は同じだ。

 見た目が美少女の春樹と一緒に歩いていると、他の男子から嫉妬と羨望が混じった視線が向けられる。


「いつから、女の子になったんだ?」

「スカート履くようになったのは、健太がベトナムにいってすぐぐらいかな。あと、良く誤解されるけどスカート履いてかわいくなるのが好きなだけで、中身は男だからね。スカート履いているから、女の子って短絡的だよ」

「そのあたりは、よくわからん」

「健太も、すこしはLGBTを勉強するといいよ。ところで、この後何か予定ある?」

「ないけど」

「じゃ、久しぶりの再会を祝して、僕の家でゲームしようよ」


 たしかに、中身は昔と変わらないようだ。


 一度家に戻り私服に着替えた後、春樹の家へと向かう。

 チャイムを押すと、春樹の母親が迎え入れてくれた。


「あら、健太君、久しぶり。大きくなったね。ほら、春樹、健太君が来たわよ」

「2階に上がってくるように言って」


 階段の上から、春樹の声が聞こえる。


「お邪魔します」

「春樹があんな風になって驚いたでしょ。ちょうど、健太君がベトナムにいってすぐぐらいかな、スカート履きたいって言いだして。それから、スカート履いて学校に通うようになって、みんなから何か言われても知らん顔で、中学もセーラー服で通ったし。まあ、男が男らしくって時代でもないからね」


 春樹の母親はあきらめ顔の表情で話してくれた。


「健太、いつも通りマリオカートから始めるか?」

「そうだな」


 5年間の時を経ても変わらない調整で春樹が話しかけてくる。変わったのは、春樹がミニスカートを履いていることぐらいだ。


「なんか久しぶりだけど、そうじゃない気もするな」


 数回対戦を繰り返し、一休みしたところで春樹がボソッと言った。


「ああ、僕もそう思った。5年ぶりだけ、昨日も一緒に遊んでいたような気がする」

「ところで、健太、僕の姿みて驚いた?」

「驚いたよ、こうやって一緒に遊んでいたのに、かわいい女の子になっていたから、そりゃ驚くよ」

「かわいい?やっぱり、そう思ってくれる」


 にじり寄りあいながら、春樹が僕との距離を縮めてきた。


「なんで、僕がこんな格好していると思う?」

「えっ、LBGTってやつじゃないの?」

「違うよ、健太のことずっと好きだったけど、健太は女の子が好きでしょ。だから、見た目だけでも女の子になったの」


 突然の告白だった。そして、気づいた時には押し倒されていた。清楚可憐な美少女の欲情した顔が僕の顔に近づいてくる。

 見た目かわいい女の子でも、中身は男ということもあって押さえつけられると抵抗はできない。

 いや、抵抗しなくてもいいと思えてきた。5年間、僕のことを思い続けて女の子になった春樹の愛を受け入れることにした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


 似たタイトルの有名ラノベ作品から着想をえた作品です。というか、そのラノベの美少女、この作品と同じように男友達が時を経て美少女に変身した話だろうと思って途中まで読んでいました。

 本当に女の子だったと気づいたのは、結構経ってからでした。


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