第20話 圧倒的な場違い感
妹である聖女マリィと、アランベルク王の息子であるダンデルト第三王子の婚約披露パーティー、その当日を迎えていた。
私は長い髪をサイドアップで纏めて、リンカさんに仕立てて貰った赤いドレスに袖を通し、賑わいを見せるアランベルク城へと赴いていた。
城門の前は多くの馬車や人々でごった返し、いつもは固く閉じられている大きな城門も、今日はたくさんの貴族や令嬢たちを歓迎する為に開け放たれていた。
そんな彼らとは違って、私はキリヤ君の案内で特別な入り口からお城の中へと入ってきた……のだが、急いで走って来た別の騎士様に彼は呼び出されていた。
「ごめん、フォリィ。俺、警備の事で少し詰め所に行ってくる」
「ううん、私のことは気にしないで。しっかり、お役目を果たしてきてね」
「ほんとに、ごめん。すぐに、会場に向かうから」
キリヤ君はそう言いながらも、繋いでいた私の手を一向に離そうとはしない。
「ほら、早く行かないと」
「ああ、そうだな。それじゃ、また後で」
私に急かされて名残惜しそうに手を離した彼は、呼びに来た騎士様と一緒に詰め所へと走って行った。そんな彼の背中を見ながら、私は小さく手を振って見送る。
仕事だから仕方ないけど、本当ならキリヤ君と一緒にお城を歩きたかった。そしたら、ちょっとしたお姫様気分を味わえたに違いない。
ともかく、いつまでもここに居ても仕方が無いので、彼に待ってて欲しいと言われた場所に向かう為に、近くにいた兵士の案内で私は列を成している人々と合流した。
アランベルク王城内にある、王宮舞踏場。
王国内で行われる儀式や祝事など、ことある毎に使用されているらしく、広々とした立派な作りの会場だ。
輝きを放つ大きなシャンデリアに、細部まで拘られた柱や壁。そして、大理石で出来た床には真っ赤な絨毯で敷き詰められている。華やかに彩られた会場内には、国中の貴族や有力者たちが所狭しと集まっていた。
「こちらでお待ち下さい。しばらくすれば、キリヤ様がお越しになると思います」
「あ、ありがとうございました」
兵士の方に礼を述べると、彼は敬礼をして今来た道を戻っていった。その背中が見えなくなるまで見送った後、私は会場をグルっと見渡した。
今まで触れる機会の無かった、贅を尽くした煌びやかな世界。
英雄の血を引く聖女と言う立場でありながら、私は淑女の勉強も社交界へのデビューもせず、日夜、王立学院にて草花の研究に没頭してきた。だから、圧倒的な場違いな空間に気後れ……と言うよりも、妹の婚約披露パーティーなんて来たくなんてなかったのが本音だ。
「うぅ、こんなところ、一秒でも早く帰りたい」
周りには、目も眩むような装飾品で着飾った淑女や御令嬢たちが、気品漂う紳士の方々と楽しく会話を楽しんでいる。
そんな紳士、淑女らを横目で見ながら、小さく溜息をついた。
「はぁ……何が楽しいのか、これっぽっちも理解出来ない」
政治的な繋がりや人脈作りに必死に時間を費やす貴族の方々。そんな事よりも、草花やお茶の香りを楽しみながらお昼寝したり、アトリエでポーションの研究をしている方が、よっぽど有意義な時間ではないかと思う。
いや、そもそもの価値観が違い過ぎて、比べるまでもなかった。
「彼が来るまでどうしよう」
私は所在なさを紛らわす為に、奥の方で楽器を弾く一団へと視線を移す。会場内には、彼ら宮廷音楽隊の演奏が響き渡り、落ち着いた時間が流れていた。
そんな穏やかな空気の中、私へと向けられるジットリとした視線の数々。
人々の背に隠れ、なにやらヒソヒソと話しながら品定めでもするかの様にジロジロと見てくる数人の貴族たち。
あれは誰だ? どこの御令嬢でして? 見た事ないぞ? 貧相なドレスだこと。
聞こえるはずのない声が、手に取る様にわかる。あれは、そう言った視線なのだ。そんな空気に耐えかねた私は、助けを求める様に大好きな彼を探して辺りを見回す。
しかし、あまりに人が多過ぎて、この中から一人の人間を探すのは至難の業である事をすぐに察っして肩を落とした。
もし、キリヤ君がここに来てくれていても、私を見つけてくれるだろうか。そんな不安に駆られていると、聞き覚えのある声で呼び止められた。
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