第13話 テントにて
案内されたテントの中は意外に広く、地面には赤い絨毯が敷き詰められている。私は失礼だとは思ったが、キョロキョロと中を見回した。
「簡易的なのに、ずいぶんと豪華なのですね」
中央には立派なマホガニー製のテーブルと椅子が置かれており、他にも派手な装飾を施したクローゼットやベッド、それに食器棚などが所狭しと設置されている。
「数時間程度の訓練ですので、ここまでしなくていいとは、いつも言ってはいるのです」
「でも、部下の方々が張り切られるのですね」
「まぁ、気持ちは嬉しいですよ。しかし、余計な事に力を入れるのどうかなと」
「それだけキリヤ様が、周りの方々から好かれている証拠だと思います」
「……だと、良いのですが」
彼はそう言うと、端にある台に置かれたティーポットへと向かった。
「あ、そうだ。キリヤ様、これを」
私は彼の背中越しに声をかけ、謝罪の為に作った自家製の栄養剤をバスケットから取り出した。振り返った彼は、少し首を傾げる。
「これは?」
「その、恥ずかしいのですが。私の、手作りの
「ミルフォリム様の?」
「はい、大したものではないのですが……」
コルクで栓をしたワインボトル程の大きさのビンと小さなグラスを彼に差し出す。
「頂いても宜しいのですか?」
「もちろんです。疲労回復の栄養剤ですので、美味しい物ではないですけれど。あと、効き目が強い物なので、この小さいグラスで一日一杯だけお飲みください」
「なるほど、ありがとうございます」
「……いえ」
私が差し出したボトルとグラスを、キリヤ様が受け取ってくれる。
「あの、大変失礼な質問とは思うのですが」
「はい?」
「この疲労回復剤の中身は、一体どういった物が調合されているのですか?」
彼が回復剤に興味を持ってくれたことに、私の心が少し踊った。
「え、えっと。この回復剤には、白い東洋の人参、ムイラプアマと呼ばれる木の根を乾燥させた物に、同様に乾燥させたツルドクダミの根、葉が退化した鱗片の多肉茎のニクジュヨウに、擦り下ろした生姜、それに桂皮と芍薬の根、他にも……」
「……」
そこまで話してようやく、指折り数える私を黙って見つめるキリヤ様の視線に気がついた。彼は口を開けたまま、唖然としているようにも見えた。
「わ、私ったらすみません! ついつい、不必要なことまで!」
「あ、あぁ、いえ。わたくしの方こそ、すみません。お話しているミルフォリム様を、ジロジロと見つめてしまって」
「う、うぅ、本当に、すみません……」
「いえ、こちらこそ、失礼しました」
私も彼もお互いに謝り合って、そのまま黙りこんでしまった。
なんだか微妙な空気が、辺りを満たしていく。
キリヤ様が回復剤に興味を持ってくれたことが嬉しくて、ついつい調子に乗って詳しい素材の話までしてしまった。昔からよくやる、私の悪い癖だ。
普通の人は、そんな物に大して興味はないと言うのに。
彼は流れで話を広げてくれただけなのだから、簡単に”生姜など、体に良い物を使っております”だけで良かった。分かりやすく、簡潔に伝えればそれで良かっただけなのに、恥ずかしい限りである。
「しかし、ミルフォリム様は本当に調合がお好きなのですね。今のお話をされている時のあなた様は、とても楽しそうでした」
「い、いえ、その様な! 今の話は、わ、忘れて下さい!」
「無理ですよ。楽しそうに話される可愛い笑顔を、忘れる事なんて出来ません」
「え?」
「え?」
なんだろう。何か今、すごい事を言われた様な気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます