第七章 六月二十三日 北御殿場基地事件~激闘
司令室は混乱状態に陥っていた。無線などが一切使えないため、ひっきりなしに伝令役の隊員たちが出入りを繰り返している。が、そんな状況であるため伝わってくる情報は完全に錯綜状態に陥っていた。
「くそっ、一体何が正しくて何が誤報なんだ!」
本部管理中隊隊長兼駐屯地副司令の鷹沼二佐が机を叩きながら叫ぶ。その場にいる他の幹部たちも同じように複雑そうな表情をして押し黙っていた。
「奴はどこにいるんだ! それに、前線の様子は一体どうなっているんだ!」
「落ち着き給え。苛立っても判断を見誤るだけだ」
駐屯地司令の鶴木一佐が静かに言う。さすがにこの状況でも彼は冷静沈着だった。
「すでにいくつかの隊が交戦しているのは確からしい。装甲車を出したという報告もあるが……これが事実かどうかはわからん」
「事実だとすれば問題です。さすがに装甲車はやりすぎだ」
「あるいは、そこまで前線の状況がひどい状態なのか……相手が何者なのかはわかったのか?」
「いえ、残念ながら、確認して戻ってきた隊員はいません」
鷹沼が悔しそうに言う。鶴木は頷きながら、それぞれの中隊の隊長たちに尋ねた。
「各々の隊の状況はわからないのかね?」
「必死に伝令や偵察隊を送ってはいますが、芳しくありません。もはや、統制も何もあったものではない様子です」
「日頃から訓練している我が隊をここまで攪乱できるとは……敵は相当な手練れだな」
鶴木の表情が険しくなった。
と、そこへ部屋の中に伝令の一人が戻ってきた。
「報告! 現在敵は4号隊舎近辺にて第2中隊のいずれかの小銃小隊と交戦中の模様! 戦闘状況は不明なるも、こちらの被害が大きい様子!」
「確かか?」
「自分が4号隊舎方面で銃声らしき音を直接聞きました!」
「……ならば、そこで何かが起こっているのは確かだな」
そう言うと、鶴木は第2中隊隊長の烏屋三佐に顔を向けた。
「さて、どうするね?」
「……もはや、彼らがうまくやってくれることを祈る他ないでしょう。できるなら、援軍の派遣が望ましいですが……」
「現状の混乱では無理かもしれないな。何しろ、こちらの指示が的確に伝わっているかさえわからんのだからな。もっとも、君らが直接現場に出て指示ができれば、この限りではないのだろうが……」
その言葉に、五人の隊長たちの顔が引きしまった。
「命令とあれば、喜んで」
「まぁ、待て。もう少し状況を見定めよう。話はそれからだ」
そう言う鶴木の目は真剣そのものだった。
ほぼ同時刻、黒井出雲は基地内にある倉庫の一角に隠れながらジッと外の様子を窺っていた。そこには出雲を探そうとしている別の意味での怪物……一台の装甲車がゆっくりと周囲を探索している最中だった。
北御殿場駐屯地は第60普通科連隊の管轄であり、すなわち普通科こと歩兵部隊の基地である。ゆえに機械科の所属である戦車などは装備されておらず、出雲も万が一にもこの場で戦車と対決するような事はないとあらかじめ判断していた。いくら怪物めいた実力を持つ出雲とはいえ、単身戦車とやり合うのはさすがに無理がある。ゆえに今回、出雲は戦車に対する対策を特にしてはいない。
だが、装甲車となれば話は別だ。そもそも装甲車は普通科の移動の足として装備されている車両であり、当然その主目的である普通科連隊には何台か配備されている。よって、普通科連隊の基地を襲撃するなら、状況いかんによっては装甲車との戦闘になってしまう場面も出てくると出雲自身もある程度は予測していた。もっとも、たった一人の少女相手に自衛隊側がそう簡単に装甲車を引っ張り出してくるかわからないところもあったのだが、どうやら向こうは想像以上に切羽詰まった状態らしい。
「とはいえ、これは一つのチャンスではございますね」
しかし、こんな状況にもかかわらず、出雲は薄い微笑みを浮かべ、外をうろついている装甲車を改めて見つめた。96式装輪装甲車……それが現在出雲を探している装甲車の正式名称である。八輪のタイヤを備え、前方右側に操縦席、その後方に対人対装甲車用の96式40mm自動擲弾銃を備え付けた銃手席があり、その横に分隊長の乗る車長席がある。その後方は後部乗員席があって、上部にある八つのハッチから隊員たちがそれぞれ小銃を構えて周囲を警戒している。
定員はフル装備した隊員を乗せたとしても通常十名、すなわち普通科の一つの分隊が全員乗る事を前提として作られている。となれば、現在出雲を探しているあの装甲車には、増援として駆け付けた分隊の全員が乗っている可能性が高いのである。
もちろん、装甲車を単身で撃破する事は非常に困難であろう。しかし、逆に言ってしまえばこの装甲車をどうにか退ける事さえできれば、その時点で一つの分隊を丸ごと無力化させる事ができるという事なのである。また、装甲車を破壊したという事実だけでも、敵方を牽制するのに十分すぎる戦果と言えるだろう。
「つまり……ここで退くという選択肢は、あり得ないという事でございます」
出雲はそう呟くと、傍らのキャリーバッグを軽く蹴って何かを取り出した。それは、村井から購入したばかりの一丁のショットガンだった。
それをひとまずキャリーバッグに立て掛けると、出雲は次の準備にかかる。ホルスターからマグナム拳銃を抜き出すと、なぜかまだ弾丸が残っているマガジンをいったん抜いて地面に捨て、さらに薬室にある弾丸も輩出してしまった。その上で、ポケットから別のマガジンを取り出す。そのマガジンは他のマガジンと違って底の部分に一本の赤いラインを引いて他のものと区別できるようにしてあり、出雲はそのマガジンをゆっくり弾倉に装填すると、スライドを引いてコッキングした。
その上で、拳銃を一度ホルスターに放り込み、再びショットガンを手に取るとこちらには何やら大型の弾丸を装填してスライドさせる。
「さて、怪物を仕留めに参ると致しましょうか」
出雲はそう言うと、ショットガンを片手に倉庫の中を移動し始めたのだった。
第3小銃小隊第3小銃分隊隊長の貝本勇二陸曹長は緊張した様子で装甲車の車長席から周囲を見回していた。隣の銃手席に座って装甲車備え付きの自動擲弾銃で辺りを警戒しているのは平内高正二等陸曹。前方で操縦しているのは登呂平太郎一等陸曹。それ以外の隊員たちは後部席のハッチから周辺に小銃を突き付けている。
第1分隊、第2分隊の壊滅を受け、後方支援に当たっていた第3分隊の下した決断は、装甲車による出雲の制圧だった。一人で二つの分隊を圧倒するような相手に対して、もはやこうする他ないというのが貝本の判断だった。
戦車には及ばないとはいえ、装甲車の装甲は単純な銃火器程度で何とかなるようなものではない。少なくとも先程から出雲が使用している銃器ではまずその装甲が貫かれる事はないはずである。この車体で相手の攻撃を防ぎながら追い詰め一気に制圧する。それが貝本の描いた戦略であった。
「気をつけろ。奴は自衛隊に公然と喧嘩を売る化け物だ。装甲車相手でも、どんな行動に出てくるかわからん」
「わかっています」
貝本の言葉に、銃手の平内がそう答え、操縦する登呂も小さく頷く。装甲車は現在、いくつかの建物が複雑に入り組んでいる地区を走行していた。辺りは不気味な静けさに包まれ、装甲車のエンジン音だけしか聞こえない。貝本はそんな中で必死に耳を澄ませて相手の位置を特定しようとしていた。
と、その時だった。右前方にある建物からかすかに足音らしき音が聞こえた。反射的に貝本は叫ぶ。
「右前方、あそこだ!」
「了解!」
直後、平内は自動擲弾銃をその建物の方へ向け、間髪入れずに引き金を引いた。即座に擲弾が発射され、そのまま右前方の建物の壁に着弾する。次の瞬間、轟音と共に建物の外壁が吹っ飛ばされた。
「やったか?」
「いえ、手ごたえがありません」
平内がそう言って第二弾を撃とうとした、まさにその時だった。爆発した建物の穴から、突然ドンッという音と共に何かが発射され、それが装甲車の外壁に轟音と共にまともに命中して砕け散った。
「うおっ!」
思わず貝本たちは身を屈める。見ると、貫通こそしていないが、重厚な装甲車の装甲がわずかながらにへこんでいた。その威力と音から、貝本は敵の武器を瞬時に悟っていた。
「くそっ、気をつけろ! こいつはスラッグ弾だ!」
スラッグ弾……ショットガンに込める弾丸の中でも強烈な威力を持つ弾で、その威力たるやちょっとした扉やバリケード程度なら容赦なく貫通できるほどだという。遠距離だった事もあってさすがに装甲車の装甲を貫通するには至っていないが、それでも装甲車という要塞に立てこもる隊員たちに畏怖を与えるには充分すぎる代物であった。
「畜生!」
平内が擲弾を撃とうとするが、その直前に再び銃声が響いて、ガンッという音と共に装甲車の後部席のハッチの辺りがへこんだ。後部座席の隊員たちが浮足立つ。貝本は小さく舌打ちすると、後ろに向かって命令した。
「いったんハッチを閉じて車内に退避! このままじゃいい的だ!」
それを聞いて、後部座席の隊員たちが慌てて車内に入り、車体上部のハッチを閉める。が、その間にも向こうはスラッグ弾を一定間隔で装甲車目がけて撃ち込み続けている。
「野郎!」
平内はそう叫ぶと、再度擲弾を先程の建物目がけて撃った。再び建物が爆炎に包まれる。が、直後に今度は別の建物からスラッグ弾の嵐が襲い掛かる。複雑に入り組んだ場所だけあって、装甲車も自慢の機動力を生かす事ができず、完全に射的の的に成り下がってしまっている。
「駄目だ! ここにいたら狙われ続けて終わりだ!」
「どうしますか!」
「開けた場所に出ろ! スラッグ弾はしょせんショットガンだ。射程距離は短いから、開けた場所に出れさえすれば弾が届かなくなる。隠れる場所がなくなって奴が出てきたところを仕留める!」
その言葉に、登呂がハンドルを切って装甲車をエリアから脱出しにかかる。その間にもスラッグ弾による射撃は続くが、貝本たちはそれに耐えながら装甲車を進めていく。
「何て奴だ。本気で装甲車に挑もうと考えているのか」
貝本がそう呟いた時だった。突然、ヒュンという空気を切る音が貝本の耳に響いた。
「な、何……」
「うわぁっ!」
何かを言う暇もなく、自動擲弾銃席に座っていた平内が宙を舞って、悲鳴を上げながら装甲車の背後へと消えていった。それが出雲によるワイヤー攻撃で平内が車外に引きずり落とされたのだと理解できたのは、平内が消えてから数秒後の事だった。
「畜生!」
何があったのかを判断するや否や、貝本は車長席のハッチの下に潜りこみ、ハッチを半開きにしてそこから銃口を突き出して周囲を威嚇する。あのまま身を乗り出していたら自身もワイヤーで引きずり落とされて終わりである。その後もスラッグ弾による射撃と、ワイヤーが装甲車の装甲を打ち付ける音が何度も響き渡り、貝本は生きた心地がしなかった。
やがてしばらくして、装甲車は開けた場所……訓練用のグラウンドへと出た。そのままスラッグ弾の猛攻を振り切るように、装甲車はグラウンドの真ん中へと躍り出る。周囲約五十メートルにわたって建物はなく、ここならスラッグ弾の射程外になるはずだ。案の定、装甲車が中央に到達して以降、スラッグ弾による射撃は鳴りを潜めている。平内が引きずり落とされてしまったので自動榴弾銃の銃手はいなくなってしまっているが、それでもまだ小銃による一斉射撃は可能な状態だった。
「さぁ、どう出る?」
未だに半開きのハッチの隙間から周囲を観察しながら、貝本はそう呟いた。そのまま何とも言えない静かな時間が過ぎていく。
と、その時、真っ暗なグラウンドの隅に誰かが堂々と立っているのが見えた。貝本は咄嗟に双眼鏡でそれをチェックする。そしてそれが、先程自分たちが追い回していたはずの少女……黒井出雲であるのを確認し、一瞬何が何だかわからなくなった。
「あいつ……何を考えている。装甲車の前に堂々と立つなんて気は確かか?」
そう言っている間にも、驚くべき事に出雲はゆっくりと散歩でもするように装甲車の方へ向かって歩いてくる。しかも、手にぶら下げていたショットガンを途中であっさり捨ててしまうと、あろうことかホルスターからマグナム拳銃を取り出して、それを右手にぶら下げながら微笑みを浮かべて何気ない歩調で歩いてくるのである。装甲車の存在など認識していないかのような様子だ。
「なめやがってっ!」
貝本はそう呟くと、ハッチの隙間から小銃を構えた。後部座席の他の隊員たちも、同じくハッチの隙間から小銃を向ける。すでに、出雲と装甲車の距離は三十メートルほどにまでなっていた。何もない開けたグラウンドで、装甲車と出雲が真正面から対峙する。
直後、貝本が叫んだ。
「撃てっ!」
その言葉を合図に、装甲車の中からの一斉射撃が行われ……次の瞬間、今までのんびりと歩いていた出雲が動いた。唐突に右手に持っていたマグナム拳銃を両手で握ると、そのまま銃弾を避けるように右手に走りだす。そして、直後に銃を正面に構えたままで、地面を強く蹴って宙に向かって横っ飛びに飛び出したのだ。
「なっ」
予想外の行動に貝本は思わず絶句する。と、出雲は小さく口に笑みを浮かべ、横っ飛び状態のまま空中で両手に構えたマグナム拳銃を一発発砲した。乾いた銃声が響き、一瞬、その場の動きが止まる。
次の瞬間だった。突如、装甲車の銃手席が鋭い爆音とともに破裂し、強い衝撃がその場を襲った。
「っ!」
隊員たちは思わず息を止めるが、何かをする暇もないまま装甲車は衝撃で吹っ飛ばされて横転してしまう。そして、貝本自身も何が起こったのかわからないまま真横から張り倒されるような衝撃を受け、どうする事もできずにその場に昏倒した。
それは、まさに一瞬の出来事だった。
出雲は装甲車が爆炎を上げながら横倒しになるのを横目で見ながら、横っ飛び状態のまま肩から地面に着地して流れるように前転。起き上がりざまに立膝の姿勢をとると、即座にマグナム拳銃を装甲車の方に構えて静止した。そして、そのままの姿勢で炎上する装甲車から誰も反撃してこないのを確認すると、ゆっくりと空になった赤いマーカー付きのマガジンを取り出し、通常のマガジンへと交換して立ち上がると、装甲車の方へとゆっくり近づいていく。
装甲車の周りには第3分隊所属の隊員たちが呻き声を上げながら転がっていた。あれだけの爆発でありながら死者はいないようだ。出雲対策でハッチの内側から狙撃していたのが功を奏したようだ。出雲はそれを確認すると、その場を去ろうとする。
「ま……待て……」
と、立ち去ろうとする出雲を誰かが呼び止めた。振り返ると、全身を打撲した貝本が呻き声を上げながら出雲を見上げている。もう立ち上がる事もできないはずだが、気力だけで出雲に話しかけている様子だった。
「今のは……今のは何だ……何が爆発した……お前は何をした……」
出雲はそんな貝本に対して微笑みながら肩をすくめると、先程取り出した空のマガジンを貝本の前に放り投げた。
「炸裂弾、でございます」
そう言われて、貝本はギョッとしたような表情をする。
「説明するまでもございませんが、弾の中に火薬をセットし、着弾と同時に破裂するように仕込まれた代物でございます。もっとも、小口径の拳銃などでは火薬の量に限りがあり、なおかつ発射時に破裂しないようデリケートな調整が必要でございますので、滅多にお目にかかれないものでございますが……これはさる優秀な武器商人に頼んでマグナム拳銃用に特注した拳銃仕様の炸裂弾でございます」
もっとも、武器商人・村井をもってしても調整にかなり時間がかかるため、この弾は一ヶ月に数発程度しか作れないというのが現状であり、しかも値段はかなり高い。このため、出雲としてもよほどの事がない限りは使用できないという代物であった。
「とはいえ、この程度の炸裂弾ではここまで大きな爆発を起こす事はできませんし、装甲車を止めるなど夢のまた夢でございます。ですが、狙う場所いかんではこの限りではございません」
「狙う場所って……ま、まさか……」
その可能性を思いついて、貝本は顔を青ざめさせた。それを見ながら、出雲は淡々とあくまで可憐な声で告げる。
「装甲車備え付けの自動擲弾銃。その銃口にこの弾を撃ち込んだらどうなるか……おわかりかと思いますが?」
まさに怪物だった。この少女はあの一瞬で、装甲車に備え付けられていた自動擲弾銃の銃口を狙って炸裂弾を撃ったのである。銃口に命中した炸裂弾は銃口内で爆発し、それはセッティングされていた銃口内の擲弾を誘爆させてあれだけの大爆発を引き起こす。理屈は簡単だが、しかし三十メートルの位置からあの横っ飛びの不安定な体勢で、小さな自動擲弾銃の銃口の中に銃弾を叩き込むなど、とんでもない射撃技術が必要である。
そして今思えば、この少女はそれだけの事をしながら、装甲車の人間が死なないように配慮までしているのである。自分たちが死ななかったのは、出雲によるスラッグ弾の連続射撃とワイヤー攻撃を避けるためにハッチの中に隠れていたからで、もしこれがまともに爆発を受けていたらただでは済まなかったはず。さらに、平内を真っ先に排除したのも、自動擲弾銃自体の動きを封じて銃口を狙いやすくするという目的の他に、銃手である彼が爆発に巻き込まれないようにという配慮があったからに違いない。つまり、自分たちは最初から最後までこの少女に踊らされていたという事になってしまうのだ。
それに気づいた事を出雲も悟ったのか、最後にこう言い添える。
「私はむやみやたらに人を殺す趣味はございません。私が狙うのは、あくまで目的の人物だけでございます。何はともあれ、感謝いたします。これが自動擲弾銃ではなく通常の機銃備え付けの装甲車では、さすがにここまでうまくはいかなかったでしょうから」
「ば……化け物……め……」
貝本は最後にそう呻くと再び気絶した。それを見届けると、出雲はそのまま装甲車に背を向け、再び建物のある方へと歩いていく。
今の騒ぎでおそらく各地に散っている他の部隊や残存兵もここへ集まってくるはずだ。戦いはまだ終わっていない。出雲は銃をコッキングすると、すっと目を開けて暗闇にそびえる基地の方を見やった。
そしてその数分後、グラウンド周辺では、いくつもの銃声と怒号、そして悲鳴が響き渡る事になったのである。
「第1、第2、第3小銃分隊、消息不明! 奴にやられたものと見られます!」
武器庫前の第3小銃小隊前線基地。残った第4小銃分隊隊長の一松春哉陸曹長が、第3小隊隊長の玉造航太郎二尉に状況を報告していた。その顔は心なしか蒼ざめ、状況がすでに劣勢になっている事は嫌でもわかる話だった。
「先程のグラウンド方面の爆発音は?」
「詳細は調査中ですが、どうも装甲車が撃破された様子です」
その報告に、その場にいた小隊の幹部陣営……玉造の補佐役である本部小隊所属の扇原良之助二尉、林沼吉道三尉、松北健人陸曹長がどよめく。
「装甲車を倒すなんて、どんな化け物だ……」
「じょ、状況は?」
「現在、他の部隊がグラウンド付近で交戦中ですが、どうも劣勢のようです。こちらの被害が増大しています。……我々はどうしますか、隊長!」
一松の言葉に玉造はしばらく目を閉じて何かを考えていたが、やがて目を開けて決断するように言った。
「残った第4小銃分隊を増援として派遣。私が直接指揮を執る」
「た、隊長!」
扇原が慌てたように声を上げる。
「もはやこうなっては可能な限り戦力をつぎ込んで奴の被害を少しでも軽減する他ない。それに、私自身、隊長としてこんなところで黙っているわけにはいかない」
「しかし、隊長! ここで隊長までやられたら、この部隊はもう再起不能になってしまいます!」
「一中隊の一小銃小隊の隊長である私一人がやられたところで、どうにかなる基地でもあるまい」
「基地ではなく、この部隊の事です! 隊長、新設されたばかりのこの基地で、この小隊がやって来られたのは、全部隊長のおかげなんです! こんなところで隊長を潰されるわけにはいきません!」
松北がそう言って説得する。
「……では、私にどうしろと?」
玉造の問いに、答えたのは林沼だった。
「我々が先行します。隊長は戦局が危うくなったらすぐに撤退して、司令本部の鶴木連隊長と合流してください。鶴木連隊長なら、隊長さえいればこの状況を打開できる策を打ち立ててくださるはずです」
「そうです! 隊長さえいれば、まだ挽回できるかもしれないんです!」
隊員たちからそう言われて、玉造はしばらく苦渋の表情を浮かべていたが、やがて小さく頷いた。
「……わかった。先行は任せる。私も後方からバックアップする」
「了解!」
その場の全員が立ち上がった。
グラウンド近辺はまさに地獄絵図と化していた。あちこちで自衛隊員たちが呻き声を上げて倒れている中を、右手にマグナム拳銃をぶら下げた出雲がキャリーバッグを引きながらゆっくりと歩いている。
「歯応えのない方々でございますねぇ」
のんびりとした口調でそんな事を言いながらも、周囲を警戒する事は怠っていない。
と、そこへ物陰から自衛官の一人が気勢を上げながら突っ込んできた。
「し、死ねぇ!」
そのままばらまくように小銃を腰だめで乱射する。もはや連帯も統制も秩序もあったものではない。そして、このような状況になった相手など、出雲にとっては格好の獲物である。
小銃の銃声を遮るかのように、ドンッと一発の銃声がその場に響き渡った。直後、小銃の銃声がやみ、呻き声と共にその自衛官が地面に倒れ込む。
「死ねとは、随分でございますね。その言葉は、実際に死線を潜り抜けた人間だけが使う事を許される言葉でございますよ」
マグナム拳銃の銃口から煙を上げながら出雲がうそぶく。その言葉も、長年殺し屋として生き延び続けた彼女が言うと、妙に重い言葉であった。
「さて、この狂宴もそろそろ終幕に近づいてきたはずでございますが……」
と、そんな事を呟きながら先へ進もうとする出雲の足元に、不意に一発の銃弾が着弾した。出雲は足を止めると、ジッと目の前に広がる建物の辺りを見据える。暗闇の中、何かが動き回る気配がかすかにあった。
「……まだ、統率が取れた部隊が残っていましたか」
そう言いながら、出雲は建物の陰に身を隠して敵の数を把握しようとする。しばらく全神経を暗闇の方に集中させていた出雲だが、やがて満足そうに頷いた。
「先発隊に五人……中堅隊に三人、そして後方に三人。合計十一名。どうやら向こうも決死の覚悟のようでございますね」
出雲はそう結論付けると、手元で素早くマガジンを交換して空のマガジンを地面に捨て、流れるような手つきでコッキングする。その表情に恐怖のようなものは一切感じられず、逆に笑みさえ浮かべていた。
「さて、どのように料理したものでございましょうか」
激闘も終盤へと突入しようとしていた。
第3小銃小隊第4小銃分隊を率いる一松春哉陸曹長は、部下の木造長秀一等陸曹、有松信頼一等陸曹、名立斗真二等陸曹、石内定昌三等陸曹の四人と一緒に暗闇に包まれた激戦区へ足を踏み入れようとしていた。後方には中堅部隊として小隊本部所属の扇原二尉、林沼三尉、松北陸曹が追従しており、その後方には第4小銃分隊所属の野迫川良子二等陸曹、宝木勝美三等陸曹という二人の女性自衛官の護衛を受ける形で小隊長の玉造二尉が控えている。
「隊長……」
「あぁ、わかっている。凄い威圧感だ……」
一松は暗闇の向こうから漂ってくる重苦しい圧力に、思わず息を飲んでいた。なるほど、確かにこれはちょっとやそっとでどうにかなる相手ではない。一松は直感的にそう感じていた。
「サマーワの夜を思い出すな」
「隊長、そう言えばイラクに行っていた事が……」
「非武装地帯とはいえ、やっぱり緊張したものだ。けど、今ほどじゃなかったな」
そう言う一松の額には汗がにじんでいる。まさかこの平和な日本の、しかも自衛隊の駐屯地で、こんな本格的な戦闘を経験する事になるなどとは一松にとっても予想外だった。
「さて……どうやら向こうさんも本気のようだ」
と、暗闇の向こうからゆっくりと誰かが歩いてくるのが見えた。漆黒のセーラー服を着た悪魔の少女……その姿を見た瞬間、一松は叫んでいた。
「総員、総攻撃開始! 何が何でもここで食い止めろ!」
直後、激しい銃撃音がその場に響き渡った。
ドンッ。
激しい小銃の銃声に混じって時折聞こえる腹の底をえぐり取るような別の銃声に、玉造は苦渋の表情を浮かべていた。その音が響くたびに、小銃の銃声が少しずつ消えていく。それは、自分の部下たちがなす術もなくやられていくのを聞いているのと同じだった。
ドンッ。
また一発の銃声が響き、小銃の音が小さくなる。が、一瞬後に再び小銃の音が盛り返した。どうやら、後続の中堅部隊が合流したらしい。だが、その銃声も再度ドンッと音が響くたびに少しずつ小さくなっていく。
ドンッ、ドンッ……一定の間隔を置いて銃声が絶えずに鳴り響き続ける。そして……何発か銃声が響いたところで、完全に小銃の音がやんだ。後には不気味な静けさだけが残り、玉造と残された二人の女性自衛官は息を飲んだ。
「駄目か……」
玉造が悔しそうにそう呟いたその時、暗闇の向こうからカラカラとキャリーバッグのキャスター音が響いてきた。それを聞いて、野迫川、宝木の両女性自衛官が緊張した様子で小銃を暗闇向けて構える。
「隊長、ここは我々が。隊長は撤退してください」
「しかし……」
「もはやこの場での勝負は決しました! さっき林沼三尉の言った通りです! 隊長さえいれば挽回できます! すぐに鶴木連隊長と合流を! さぁ、行って!」
玉造は一瞬唇を噛み締めた。が、その判断は一瞬だった。
「……すまない」
そういうと、玉造はそのままじりじりと後方へ下がり、直後に踵を返して単身撤退していった。それを見届けると、野迫川と宝木は小さく微笑んだ後、すぐに表情を引き締めて正面の闇に叫んだ。
「そこにいるのはわかっている! 出てこい!」
そう叫んだ瞬間、暗闇の向こうから何の前触れもなくセーラー服を着た少女姿の『死神』がゆったりとした歩調で姿を見せた。手にはオートマチックの拳銃が握られており、その表情には笑みさえ浮かんでいる。
「そう叫ばれずとも、私は逃げも隠れも致しません。さて……小隊長様の姿が見えないようでございますが、どちらへ?」
「それを私たちが言うとでも思うか?」
「……思いませんね。まぁ、いいでしょう。何にせよ、邪魔をするというのなら、痛い目を見て頂きます。お覚悟くださいませ」
「き、貴様ぁぁぁっ!」
直後、小銃の銃声が響き渡り……次の瞬間に響き渡った二発の鋭い銃声で、小銃の銃声はかき消されてしまった。
後方で響く銃声を背に、玉造は走り続けていた。こうなった以上、一刻も早く司令部に合流する必要がある。幸い、ここから司令部は近い。玉造は後ろ髪をひかれつつも、無言で足を速めた。部下たちの言うように、それが最善手だと考えたからだ。
だが、その時だった。突然、暗闇に包まれた正面の建物の陰からふらりと誰かが姿を見せた。咄嗟に小銃を構えるが、見るとそれは迷彩服を着た若い自衛官だった。一瞬、銃をそらしかけた玉造だったが、すぐにその表情が緊張する。どうもその隊員の様子がおかしい。目の焦点があっておらず、虚ろな視線のまま何やらブツブツと呟き続けているのである。
「おい、どうした! 大丈夫か!」
玉造は反射的にそう声をかける。が、直後、その若い自衛官はカッと目を見開いて、そのまま悲鳴のような金切り声を上げた。
「く、来るなァァァァァァッ!」
そのままか玉造に持っていた小銃を向けると、あろう事かそのまま引き金に指をかけようとする。玉造は身の危険を感じて近くの建物の陰に飛び込んだ。次の瞬間、玉造が今いた辺りに銃弾の雨が降り注いだ。
「馬鹿っ、落ち着け! 味方だ!」
玉造が叫ぶ。が、自衛官は聞こえていないのか口からよだれを巻き散らかして絶叫しながら無差別に発砲を続ける!
「アアアアアアァァァァァァッ! 来るナッ、殺すナッ、助けてクレェェェェェッ!」
完全に錯乱状態である。見た限りここ数年に入隊したばかりの新米隊員のようだが、いきなり叩き込まれた極限状態に精神が追い付かずに敵も味方もわからなくなってしまっているらしい。だが、玉造としても味方を撃つわけにはいかない。
「くそっ」
ひとまず遮蔽物に身を隠し続ける。と、しばらくして急に銃弾が途切れてカチカチと言う音が聞こえた。どうやら弾切れらしい。が、その自衛官は銃弾が出ていないにもかかわらずなおも引き金を引き続けている。玉造は制圧するなら今だと考えて遮蔽物から飛び出そうとした。
が、直後に玉造はギョッとした表情を浮かべた。なぜなら、その自衛官がいきなり小銃を地面に叩きつけると、おもむろに意味のわからない事を絶叫しながら腰の手榴弾に手をかけたからである。
「ば、馬鹿野郎!」
「アアアアアッ、アアアアアアアアァッ、アアアアアアアァァッ―――――――!」
玉造は咄嗟に相手に飛びかかって手榴弾の投擲を防ごうとしたが、わずかに早くピンが抜かれ、手榴弾が宙に投げられる。玉造がその自衛官を地面に押し倒した次の瞬間……手榴弾は玉造の頭上で炸裂した。
「グッ……オッ……」
幸いかなり遠くまで投擲されていた事もあって破片の直撃こそ免れたが、その衝撃波は凄まじく、玉造はその場で意識を失ったのだった……。
それから数分後、司令部では鶴木ら幹部陣営が焦りの表情を浮かべていた。
「どうなっているんだ……伝令が来なくなった……」
鷲部三佐の言葉に誰もが重苦しい顔をする。伝令が来なくなったという事は、すなわちこちらの部隊があらかた壊滅状態に陥った事を意味する事に他ならない。どころか、さっきまで激しく響いていた轟音が次第に静かになりつつあり、その事がますます司令部の空気を重くしていた。
「残っているのは、もはや我々だけ、という事か……」
鶴木が厳しい表情でそういうのを、否定する人間はもうどこにもいなかった。もはや、勝敗は明らかだったのである。
「一佐。部隊がすでに壊滅したとなれば、敵が次に目指すのは……」
鷹沼二佐がそこで言葉を詰まらせる。が、その先は言わずともよくわかっていた。
「ここ、だな」
「……退避しますか?」
「そうもいくまい。部下が倒れているのに、上官たる私が逃げるわけにもいかない。最後までここにいるとするよ」
そう言うと、鶴木は覚悟を決めたように拳銃を抜いてテーブルの上に置いた。他の幹部たちも一斉に拳銃を抜く。それを見て、鶴木は改めて指示を出した。
「……私の独断で君たちの発砲を許可する。自分の身を守る事を優先しろ。私に言える事はそれだけだ」
「了解」
幹部たちがそう頷いた時だった。
「な、何だお前……ガッ!」
部屋の外……廊下でそんな声が聞こえた。その声に、幹部たちの顔が緊張する。どうやら、部隊を壊滅させた『死神』が司令部に足を踏み入れてきたらしい。鶴木以外の幹部たちが一斉に立ち上がった。
「一佐、では、お先に失礼します!」
そう言うと、鷹沼を除くそれぞれの中隊隊長たちが拳銃片手に部屋を飛び出していった。しばらくは静けさがその場を支配したが、次の瞬間、何発かの銃声が廊下に響き渡った。鷹沼が息を飲んで成り行きを見守っていたが、五分ほどするとやがてその銃声も聞こえなくなる。
「やったか?」
鷹沼がそう呟くが、直後、廊下の向こうからカラカラとキャリーバッグのキャスター音が響き渡ってきた。それだけで、鶴木は事の顛末を悟っていた。
「駄目か……」
「……一佐、ここは自分が」
そう言うと、鷹沼が前に出てドアの方へ銃を向ける。キャスター音がドアの前で止まり、不気味な静寂が少し続く。と、不意にドアがゆっくりと開いた。
「くたばれ!」
直後、鷹沼の銃が火を噴いた。ドアに向かって銃弾をすべて撃ち込み続ける。やがて弾切れになると、再びその場に静けさが戻った。
「はぁ、はぁ……」
息を吐きながら、鷹沼は結果を確認しようとした。が、次の瞬間だった。
ドンッ、とドアの向こうから銃声が響き、鷹沼の右腕から血が噴き出した。
「ウッ!」
鷹沼は思わず銃を取り落として右腕を押さえる。が、立て続けにドアの所から銃声が響き、同時に鷹沼の腕や足から血が吹き出す。鷹沼は呻き声を上げながら、その場に崩れ落ちて気絶してしまった。恐ろしい事に、これだけ撃っておきながらすべて急所を外されている。
鶴木は自分の席からそれを見届けると、無言でドアの方を見やった。と、穴だらけになったドアが開き、その向こうから誰かが姿を見せる。黒のセーラー服の少女……黒井出雲が、右手に銃をぶら下げ、左手でキャリーバッグを引きながら、まるで散歩でもするように鶴木の正面へ向かっていた。
「……」
鶴木は黙ってその様子を見ている。やがて、出雲は鶴木の正面五メートルほどの場所に来ると、そのまま鶴木と対峙した。互いに視線を交わしながら、出雲は空になったマガジンを素早く抜き取ると何気ない様子で床に倒れる鷹沼の傍に放り投げ、そのまま新しいマガジンに交換しながらコッキングしてぶらりと右手にぶら下げる。力は抜いているが、いつでも撃てる状態である。
「……君が襲撃者、という事でいいのかね?」
鶴木の問いに、出雲は微笑みを浮かべた。
「その通りでございます。鶴木連隊長様、でございますね」
「あぁ」
と、次の瞬間、鶴木は机の上に置いた銃を手に取ると、ゆっくりとした動作で出雲に向けた。それに合わせるように、出雲もその銃口を鶴木に向ける。
「余計な話はもうよそう。私が聞きたいのは一つだ」
「何でございましょう?」
「……これは、すべて君の計画通りなのかね?」
その問いに、出雲は笑みを崩さないまま答えた。
「はい」
「……そうかね。なら、私が言う事はもうない」
そう言った瞬間、鶴木が引き金に力を籠め、出雲も即座に同様の動きを見せる。
直後、司令部の部屋に、二発の銃声が響き渡った……。
「そんな……」
同じ頃、玉造はボロボロになった体で、司令部の部屋から漏れ出した銃口の光を見て取っていた。それは、もはや司令部がまともに機能していない事を示す最後の合図となった。
あの後、玉造は何とか気絶から復活する事ができた。幸い大した怪我らしい怪我もなく、同様に気絶していた先程の錯乱した兵士を手近な柱にロープで拘束すると、そのまま司令部へと向かったのである。
だが、気絶した数分間は玉造にとって致命的な数分間になってしまった。到着した時にはすでに司令部周辺には呻き声を上げる自衛官たちが転がっているだけであり、思わず司令部のある二階の窓を見上げた瞬間、先程の銃口の光を見る事になったのであった。
こうなっては、司令部に行く事は断念せざるを得ない。行ったところでどうにもならないからである。しかし、それ以前の話として、もはやこの駐屯地にまともに機能している部隊は存在しないようだった。先程から、無事な人間を全く目撃できていない。もはや、この基地で動けるのは自分だけのようである。
それを把握した瞬間、玉造も覚悟を決めた。そのまま踵を返すと、司令部から離れてある場所へと向かい始める。目的地は武器庫前……最初に自分が本拠を置いていた場所である。
これだけの事をしでかした犯人なら、自分一人を見逃すとは思えない。とすれば、必ず犯人は自分の前に姿を現すはずである。ならば、せめて最後くらい堂々と奴と対峙したい。それが玉造の考えだった。そして、玉造はその場所を、あの武器庫の前に定めたのである。
「私の最後の意地だ……誰だか知らないが、付き合ってもらうぞ」
玉造はよろよろと前に進みながらも、そう呟いていたのだった……。
暗闇の中、出雲は静まり返った駐屯地内を突き進む。もう、彼女の行く手を遮る人間はどこにも存在しない。
「さてさて……そろそろこの事件もクライマックスでございますね」
そんな事を呟きながら辺りを見回す。と、その時建物の陰から誰かが飛び出してきた。
「アアアアァァァァァッ!」
それは、先程玉造を襲ったあの若い自衛隊員だった。どうやら自力で拘束を解いたらしく、もはや誰なのかもわからないままナイフ片手に出雲に襲い掛かってきた。だが、出雲は冷静にその辺に転がっていた小銃を蹴り上げると、それを空中でキャッチして間髪入れずに発砲した。
「グ……オ……」
自衛官はナイフを落とし、そのままその場に崩れ落ちる。にもかかわらず致命傷ではないというのはもはや一種の恐怖であった。
「殺しませんよ。私は標的しか殺しませんから」
そう言うと、小さく含み笑いをしながら出雲は宣告した。
「さて……残った小隊長様は覚悟を決めたようでございますね。ならば、私もそれに応えると致しましょう。いよいよ、この事件の幕引き……最後の推理でございます」
そう言うと、出雲は小銃を持ったまま、薄暗い闇の中へと消えて行ったのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます