第3話 おっぱい
「ニーナ! ニーナ!」
ほぼ絶叫ともいえるような大声が大聖堂中に広がる。
バタバタと大きな足音が聞こえてきて、当事者がこちらへ向かってくるのが手に取るようにわかる。
そして、バタンッ! とノックもせずにその当人が現れた。
「あらあら、まあまあ。どうしたのですか? トーリ様」
部屋の主は小首をかしげて笑みを浮かべたまま部屋に駆け込んできたトーリに問いかけた。
トーリが二十歳前後の血気盛んな若造であれば、この笑顔と今まさに抱きかかえて赤ん坊におっぱいをあげているため、片方の乳房を丸出しにしているニーナにそのハートを打ち抜かれていることは疑いない。ちなみにニーナはとんでもない爆乳なのである!
「見てくれ、ニーナ! 勇者様がこのデュランダル大聖堂に降臨なされたのだ!」
ハーディを高々と頭上に掲げるトーリ。
「あらあら、まあまあ」
天性の『あらあら、まあまあ』属性を持つ天然系美女であるニーナは、勇者が降臨したと聞いてもびくともせず、「あらあら、まあまあ」である。
そこへ、
「あんた! ノックもせず部屋に飛び込んでレディに対する常識ってモンが欠けてんのかいっ!」
後ろから入ってきたタニアにドゲシッと蹴りを入れられたトーリは思わず頭上にハーディを掲げたまま前のめりに突っ伏して、床に顔面キッスする事となった。
両手でハーディを頭上に掲げていたのだ。受け身など取れようもない。
タニアも完全にわかって蹴りを入れている。
「こっ、こらーーーーー! 勇者様に何かあったらどうするつもりだ!」
「勇者様に何かあったらアンタのせいだよ!」
自分で蹴り飛ばしておいて、その言いぐさはないだろうとトーリは思うのだが、タニアの迫力に二の句が継げない。
「あらあら、まあまあ。どうしたのですか、お二人とも?」
声をかけないと話が進まないだろうと空気を読んだニーナは二人に問いかけた。
ちょうど抱いていた赤ん坊はおっぱいから口を外し、お腹いっぱいになったのかスヤスヤと寝息を立て始めた。トーリとタニアがこれだけ騒いでいるのに寝入るとはある意味豪胆な赤ん坊である。
「あら、クラリスちゃんお腹いっぱいになって寝ちゃったのかね~」
タニアはまるで我が孫を見るかのように、にこやかな表情でクラリスと呼んだ赤ん坊を見つめた。
トーリはそんなタニアの後ろから、優しい笑顔でクラリスをあやすニーナを見つめた。
決して出しっぱなしの片乳を見つめているわけではない。
トーリは数日前にクラリスを抱いたままのニーナがふらりとこの村に来たことを思い出していた。
雨風の強い夜半の事だった。
デュランダル大聖堂の正面大扉をカツカツと弱弱しく叩く音に気付いたトーリは、正面大扉を開けに行った。
扉を開けると、そこにはずぶ濡れで乳飲み子を抱えた女性が立っていた。
「雑用でも何でも働きます。この子にお乳を飲ませてあげたいのです。少しの食べ物と雨露をしのげる場所をお願いできませんでしょうか?」
だいぶ疲れた表情でそう伝えてきた。
元よりここは教会である。助けを求めてきた者を無下にするようなことは決してない。
すぐに暖かいスープと毛布が用意され、女を部屋へと案内した。
女はニーナ、赤子をクラリスと説明した。
その日からニーナはクラリスを背負いながら教会で掃除などの雑用をこなしている。
なぜ、母娘だけなのか、夫はどうしたのか、いやどこから来たのか、何があったのか。
ニーナはただ微笑を浮かべるだけで、自分のことを話そうとはしなかった。
トーリもタニアも明らかに訳ありな2人を、しかし無理に聞き出そうとはせずそっとしておいた。
ちなみに圧倒的な美しさと爆乳のニーナ目当てに、村の男たちがこぞって朝の礼拝など、ことあるごとに教会に足を運ぶようになったことはまた、別の話である。
・・・今まで碌に祈りにも来なかったくせに。
「ニーナよ、クラリスのおっぱいが終わったならちょうどよい。この勇者ハーディにもお乳を分けてやってくれんかの? 空腹で死にそうなんじゃ」
「えっ・・・」
ニーナは一瞬逡巡した。己の使命を鑑みて。
「・・・どうかしたのか?」
トーリの疑問にニーナは、
「いいえ、神より使わされた勇者様ですものね。私でよろしければ授乳させていただきます。どうぞこちらへ」
「うむ、すまない」
トーリがハーディを抱いたままニーナに近づこうとしたその時。
「アンタは外に出てな!」
タニアがハーディを取り上げ、トーリを回れ右させた後ケツを蹴り上げた。
「ぐわぁ!」
もんどりうって扉から転げ出るトーリ。
「いつまでもニーナが胸を出したままの部屋にいるんじゃないよ! まったくデリカシーってヤツがないのかね? うちの宿六は」
正直お前には言われたくないっ! と、トーリは心の中で叫んだがニーナが授乳中だったことは確か。ここは文句を返さず外で待つのがベストと判断し、そのまま扉を閉める。
「さあ、ニーナ。邪魔者を始末したから、ハーディのこと頼むよ」
その言い回しはどうかと思ったニーナだが、口には出さずタニアからハーディを受け取った。
「さあ、ハーディちゃん。おっぱい飲みまちょうね~」
まさかのニーナの赤ちゃん言葉に一瞬タニアの意識が飛びかけるが、頭をブンブンと左右に激しくふり、意識を保つ。
これほどの美女の赤ちゃん言葉である。もう還暦近い女性のタニアですら危うく撃ち落とされるほどの威力を秘める。
「これは他の人がいるところでの授乳は危険だねぇ・・・」
あまりの破壊力にタニアは別の意味で教会の危機を感じた。
「ば・・・ぶ・・・?」
ハーディは朦朧とした意識の中、自分が先のウザいジジイから別の人間に抱きかかえられていることを悟った。
(これは・・・? さっきのジジイと違ってやわらかく包まれるようだ。それに、なんと香しい匂いだ・・・?)
ハーディが何とか意識を覚醒させようと目をぱちぱちさせると、そこには巨大な双丘が目の前に!
さらにニーナは双丘の片側にハーディを寄せていき、なんとも魅惑的な丘の上にある美しき桃色の突起へ誘う。
ハーディがよくよく目を凝らしてみると、そこには美しき桃色の突起先端から、甘く香しい匂いがする白い液体が染み出ていた。
(我に・・・こ・・・これを吸えということか・・・)
「さあ、ハーディちゃん。おっぱい飲みまちょうね~」
声をかけられて桃色の突起へ口を近づけてくれる。ハーディの空腹は限界をすでに突破しているっ!
むんずっっっっっっっっ!!
ハーディは小さな手でその小さな桃色の突起を逃すまいっと、周りの大きな丘を思いっきり掴んだ!
ふにゃぁ~
(な!? なんだっ、この柔らかさは!!)
「きゃ!」
まさか赤ん坊が自分の乳房を両手で思いっきり掴んでくるとはさすがに想像せず、ニーナは思わず声を上げてしまった。
(我が生まれ出でし数千年、これほど柔らかく気持ちの良いものに触れたことがあったであろうか! いやない!)
自己完結で全力否定していた。しかも、もう前世の記憶でどれだけ生きていたがなど、正直アバウトにしか覚えていないため、数千年が正しいのかもよくわからない。
だいたい、人間に転生した後は大した時間も経ってはいない。
それはともかく、確かに
それに比べれば、ニーナの乳房のなんとフニフニなことか!
パックンチョ!
ハーディは両手でニーナの乳房を掴んだまま魅惑の突起に吸い付いた。
スゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!
「キャァァァァァァァァァァァァ!」
絶叫! それはもう、ニーナのフルスイング的な全力の絶叫であった。
まるで魂まで吸い尽くされそうなハーディの吸引力!
ニーナは授乳で初めて恐怖した!
「こ、こらっ、ハーディ! もっとゆっくり飲みな!」
ハーディが両手でニーナの乳房を掴みながらすごい勢いでおっぱいを吸っているため、タニアは多少乱暴かもと思いながら、引き離すためハーディの両足を両手で掴んで引っ張った。
「「!?」」
タニアもニーナも目を丸くした。
タニアに引っ張られたハーディはそれでも両手を離さず吸い続けていた。
ピーンと一直線になりながら両手をまっすぐ伸ばし、決して離すまいと掴み続けながら吸い続けているハーディは、もうどこから見てもスーパーマンの格好になっていた。
「ちょ、ちょっとちょっと!?」
涙目になりながら、ニーナはハーディを見下ろすと、さっきまで死んだ魚のような目をしていたのに、今はギラギラと怪しく輝いているようにさえ見える。
ばちこーん!
ついにタニアはハーディの後頭部をひっぱたいた。
勢いあまってニーナの胸からずり落ちてしまい、そのまま床にたたきつけられる。
しまった、やりすぎたとタニアは心配したのだが、ハーディは床にたたきつけられた後、頭をふりふりしながら後ろを振り返り、
「バブーーーーーーー!」
と涙目で明らかに「何するんだ!」と言わんばかりで睨んできた。
タニアはハーディを見て、
「ホントに赤ん坊かいっ!? 魔物かなんかが化けてるんじゃないだろうね?」
などと不穏なことを口走り、ニーナはニーナで、
「はあはあ・・・、ハーディちゃん、すっごい・・・♡」
開けてはいけない扉が開いてしまったようだった。
この後、ハーディへの授乳はクラリスが終わって寝付いた後に、
「あらあら、まあまあ。ハーディちゃんおっぱいいっぱい飲みまちょうね~うふふふふ」
と妖しい笑顔を浮かべるニーナに連れられて誰にも目の届かない所で行われる事となる。
なぜだか妖艶な声や叫び声が聞こえるという噂もあるが、原因は不明である。
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