第2話 勇者って?
ゆ、勇者!?
我が人族の勇者として降臨した赤子!?
全くもって理解不能だ。
いかに我が竜の叡智を持つといっても、限度があるぞ。
誰か説明してくれ! プリーズ情報ミー!
「世界に暗雲立ち込めしとき、深紅の勇者、金色の勇者、紺碧の勇者とともに、この世界に降り立ち、闇を切り裂かん! デュランダル大聖堂に伝わる予言の言葉じゃ!」
デュランダル大聖堂? 予言の言葉?
どうやらここはデュランダル大聖堂という教会らしい。その教会に古くから伝わる予言とやらが何か関係あるのか?
だが、それでなぜ我が予言の勇者となりえるのか? 解せん。
「トーリ! 何を騒いでいるんだい!」
多少怒気をはらんだ人族の女の声が聞こえるな。こちらも比較的年老いた感じに聞こえる。
「見ろ、タニア! 勇者様が降臨されたぞ!」
やたら興奮した声でタニアとやらに声をかけているようだ。それほど勇者とやらが降臨したことがうれしいのか。・・・まあ、単なる勘違いだろうが。
「一体何を馬鹿なことを言っているんだい?」
存外に全く仕方のない・・・といった虚脱感を含ませながら声をかけてくる。
やがて足音が聞こえ、初老の巨大な男の顔の横に、これまた初老の人族の女の顔が並んだ。
・・・
やっぱりでかい。となると、やはり我が縮んだということか。
「まあまあ! 随分とかわいい赤ちゃんだこと!」
「勇者様の降臨だぞ!」
「はいはい、それにしても、母親は育てられずに、教会に赤ちゃんを置いていってしまったのかねぇ・・・。かわいそうに。」
「勇者様なのだから、神が使わせてくださったのだ!」
「どんなに困っていても、せめて教会の人間に声だけでもかけて行ってくれればよかったのに・・・」
「さすがに神様の声を直接お聞きするのは身に余ろうというものだ」
・・・なんだか、この二人の会話は全くかみ合っていないように思えるが。
我の気のせいか?
「それで、名前とか、身元が分かるようなものは何もなかったのかい?」
タニアの問いかけに、やっとトーリは我に返ったように周りを見渡す。
「そういえば裸の赤子が泣いていたが、周りに何もないな・・・。」
「せめて名前だけでも残していってくれればよかったのにねぇ」
タニアは名前だけでもわかれば、いつか会えるかもしれない両親とのつながりの一つになるのではと考えているようだ。
「よし! 勇者様の名前を付けてやろう!」
な、名前!?
「なにが良いかなぁ・・・。よし、バッケンドルフ!どうだ?」
「おぎゃぎゃーーーーーーーー!!!」
「トーリ、なんだかすごく嫌そうだね、この子。」
バッケンドルフなど訳の分からん名前などお断りだ! 我にはハーデスというちゃんとした名前があるのだ!
「それにしても、この子さっきから全然泣かないから心配だったのだけれど・・・急に元気に泣き出したわね。ちょっと安心したけど、やっぱり名前が嫌なのかしらね」
「むうっ! それでは・・・ボラウンギノール!」
「おぎゃぎゃーーーーーーーー!!!」
「それでは、ジョルジョバーナ!」
「おぎゃぎゃぎゃーーーーーーーーー!!!」
「ならばっ! ゲルドリックシュテイン!」
「おぎゃぎゃぎゃぎゃーーーーーーーーーー!!!」
だめだ、コイツ。名前を考えるセンスゼロだな。とてもではないが名づけなど任せられぬわ。
ここは何としても我が名である「ハーデス」を伝えねば!
竜の叡智全開! フルパワーで発声!
「なんじゃ!?」
「赤ちゃんの顔が真っ赤に…大丈夫かねぇ?」
全力で伝えるぞーーー!
「ハ・・・・・デ・・・・・」
「おお、何かしゃべった」
「まさか・・・名前かい? 名前があるから今までの名づけを嫌がったのかい?」
おおっ! このタニアとかいうおばば、感が良いではないか。その通りよ。
ちゃんと聞き取ってくれよ!
「そうかそうか、さすがは神が使えし勇者じゃの! お前の名前はハーディか!」
ズドーン! もう愛称で呼ばれておるわ! てか、勝手に略すな!
「お前はハーディ・デュランダルじゃ! 元気に育ってくれよ!」
だめだ、『我が名はハーデス大作戦』は失敗だ。急速に疲労感が募ってきた。
それにしても腹が減ったな・・・
竜種の時は体内に蓄積エネルギーが大量にあったので食べなくても平気だった。
周囲の魔素を吸収してエネルギーをチャージ出来たからだ。
だが、転生したと思われるこの体は、圧倒的にエネルギー量が少ない。
そして何より、魔素を吸収できない。感覚としてできていない。
どうやっていいかもわからない。何しろ竜であった頃は呼吸をするように魔素を吸収していたのだ。
・・・ろくに体も動かないのに、どうやって食事すればよいというのだ!?
転生したばかりで、我、大ピーンチ!
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