第4話

3日目は薫主導で、文学紀行IN英国になった。

まずはパディントン駅。「くまのパディントン」という童話の聖地だ。駅のプラットフォームには赤い帽子に青いコートを来た熊の像があった。

「へえ、可愛い熊だな」

「あなたパディントン知らないの?」

 白鳥が信じられないという顔で、おれを見る。

「ごめん、僕も知らないんだ」

「薫、説明よろしく」

「暗黒の地ペルーから密航してきた」

「おい、ペルーって暗黒の地なのか?」

「まあ、実際はよく知らんけど、作中ではそういうことになってるで。で、密航したきた熊のパディントンがブラウン一家に出会い、繰り広げられるはちゃめちゃな日常の話や」

「何か面白そうだな」

「児童文学やからサクサク読めるで」

 パディントンカフェでは白鳥が「可愛い可愛い」と連呼しながら写真を撮っていた。烏丸は写真を撮る白鳥の写真を「可愛い可愛い」言いながら撮っていた。

「肝心のマーマレードサンドウィッチがないなんて!」

「残念やな」

コーヒーとマフィンを頼み、休憩した。

カフェの下にはショップがあり、そこには可愛いぬいぐるみがあった。白鳥はそれを買い、烏丸はすかさず「可愛いね」と言う。おれは妹のお土産に買った。


 車で20分程走ると、次の目的地に到着した。

「次はチャールズ・ディケンズ博物館や」

「何を書いた人なんだ?」

「クリスマス・キャロルやで」

「知らねえな」

「僕も」

「来る前に勉強させておくべきだったわね」

 白鳥がため息を吐く。

「守銭奴のスクルージが不思議な体験を通じて改心するお話やで」

「へえ」

博物館にはディケンズ自筆原稿や手紙、遺品があった。

博物館の説明は英語ばかりだったので、分からない単語が出る度に、白鳥に聞いていると「あなた、それで北川大学の受験大丈夫? あそこ英語重視よ」と注意された。

次はベイカー街にあるシャーロック・ホームズ博物館だ。

「シャーロック・ホームズは?」

「さすがに知っとるわ!」

「うん、有名だからね」

「コナン見てるからな、コナン」

 建物は4階建てで、1階はグッズショップ、2階はリビングとホームズの寝室。3階はワトソンと大家のハドソンさんの部屋、4階はキャラクターを再現した蝋人形が飾られている。

「原作は読んだことあるんか?」

「ある訳ないだろ」

「開き直らんでほしいわ」

「烏丸君は?」

「シャーロック・ホームズで読書感想文書いたことあるよ」

「へえ」

「短編集で謎解きが面白かった印象があるよ」

「それは良かったで」


その後は薔薇で有名なリージェンツ・パークに寄って、帰宅した。

夜は上級貴族のクリスマスパーティに白鳥が招待されたようで、俺達もドレスアップして付いていくことになった。

「白鳥さん、ドレス姿、最っ高に綺麗だね」

「あら、そう」

おれは似合わないタキシードを無理やり着て、白鳥に付いていく。エスコートは烏丸がして、美男美女で周りの注目を集めた。

英語を操り、他の貴族と談笑する白鳥と烏丸を、おれと薫は壁際から見ていた。

「やっぱ白鳥ってすげえんだな」

「せやで」

「何か別の世界の住人みたいだな」

「そんな風に思わんといてぇや。卑屈になったらアカンで」

「そうだよな。おれは白鳥の下僕として、あいつに付いて行かないとだな」

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