第52話 鬼であり神である


 セレブタワー最上階のナイトプールで、闘いの余韻に浸っていると、ナイトプールの底から別世界へのゲートめいた光が立ち上っていた!


「鬼神透龍。あなたはイレギュラー・サイコパスですね」

「ぁん?」


 俺の前に現れたのははだけた衣装の銀髪の女だった。

 ヴェーラとよくにていることから、第二の女神なのだと理解する。


「私は女神ニュルンルン。そこの伸びているヴェーラちゃんに変わって、宣言をします」

「……きゅんきゅん」


 女神ヴェーラはは気絶しつつも俺に抱きついてきていた。

 爆乳なのはいいことなんだが、人間破壊槌にしてやったのにマジで傷一つ無いのな。


 リコの笑顔が怖いので、俺はヴェーラを剥がそうとする。


「鬼神きゅん。私と契約しませんか? 今なら5兆円あげますよ?!」


 寝言を言っているヴェーラは無視。

 俺は光柱に顕現したニュルンルンをみやる。


「あんたは敵じゃねーのか? 屍田を復活させてたようだが……」

「これより始めるのは、人類蠱毒剪定計画じんるいこどくせんていけいかくです。妖精世界の神が怒り、こちらの世界の蔓延る究極サイコパスとの契約を果たしました」


「はぁ」

「あなたには参入権利があります。アルティメットサイコパスが殺し合いをするデスゲームによって世界が浄化する瞬間に立ち会う権利が……」

 意味分からん。


「意味わからん」


 声にでてしまった。

 俺はヴェーラの足首を掴みジャイアントスイング。


「とりあえずこいつ返すわ。あとよくわからんことに参加する義理はないんで」

「え?」


 俺は倒れるヴェーラをジャイアントスイングで投げ、ニュルンルンのもとへ飛ばした。

 ニュルンルンが血相を変えて慌てる。


「や、やめやめ、待ってください。その尻は!」

 

 ヴェーラの尻の威力を失念していたが、ジャイアントスイングによってヴェーラはすでに放たれている!


 ヴェーラの尻を受けたニュルンルンの胴体がボッ、とした音と共に爆散した。


「きゃあぁああぁあぁああああ!!

「あ、わりぃ……」


 ヴェーラの尻は無限の質量でも持ってるのか?

 流石にニュルンルンの胴体が爆散したのは良心が咎めた。


 俺の心配は杞憂だった。

 しゅぅううう、とした煙の中、胴体をメタル化したニュルンルンが現れる。


「さすが女神っすね。さーせん」


 俺はニュルンルンから偉そうなオーラを感じ取ったので敬語になる。


「……これが鬼神透龍。すさまじいサイコパスレベルです。あなたには人類蠱毒剪定計画・アルティメットサイコパスデスゲームに参加する権利が……」

「あ、そういうのいいんで。お疲れ様です~」


 俺はニュルンルンに背を向けた。

 よーし帰ろう。


 面倒事は避けるに限る。意味分かんねーし。

 ヴェーラがとてとてと俺に追いすがる。


「待ってください、鬼神きゅん。話を聞いてください。人類蠱毒剪定計画のためにあなたの力が必要で……」

「うるせーーーー! 知らねーーーーー!!」


 一度言ってみたかったセリフを気兼ねなく使えた。


「ひゃあーん」


 ヴェーラにダメージはないようだ。

 この尻女神、ボディもメンタル強すぎて怖すぎる。


「じゃ、そういうことで。配信しないと。いこーぜ、リコ、メルル」


 女神ふたりを全無視して帰ろうとするとニュルンルンがワープをし、俺の前に立ちはだかった。


「ヴェーラが目をつけたのは、慧眼だったようですね。ですがあなたはすでに女神の力を受け取っている。人類蠱毒剪定計画からは逃れられない」

「やらないっす」


「あなたもアルティメット・サイコパスの資質を備えているのでしょう?! サイコパスレベルを測らせて貰いますよ!」


 ニュルンルンが、スカウターらしき片側サングラスを取り出した。

 ニュルンルンの左目が光る!


 ヴェーラがニュルンルンの肩から数値を除いた。


「わぁ。さっすが、鬼神きゅん!」

「ば、ばかな! 鬼神のサイコパスレベルが……」


 ニュルンルンは信じられないという顔だ。

 俺は尋ねてみる。


「人類コドクなんたら計画ってのはさぁ。どうせサイコパスが殺し合いをするとかいうのを女神が仕組んだって奴なんだろ? だったら俺は関係ねーよ。俺のサイコパスレベルは悪80、善20とかだと思うからな。まだ普通の範囲内だろ」


 リコが俺を小突き「悪の自覚はあったんだ……」と呟く。

 まあ軽口を言い合える仲ってことで。


「いいえ。鬼神透龍あなたはサイコパスどころか……」


 ニュルンルンの言葉は意外なものだった。


「数字が1と9999を行き来している。こんなことは初めてだ……」

「どゆこと?」


「【菩薩】と【邪神】の間を、スカウターがいったり来たりしているのです」


 ヴェーラがぶるんと胸を張ってドヤ顔をした。


「うっふふ。鬼神さんは、善悪を極端に宿した存在。神にも鬼にもなれる人なのです」


 ダメだ。この女神は馬鹿すぎるので、まったく色気を感じない。

 俺はタワーの部屋に入り、エレベーターで降りようとする。

 別れ際に挨拶だけすることにした。


「ま、達者でな。あとヴェーラ。あんたの尻には助かった。ありがとな」

「ほっらぁ! 根はめっちゃいい人なんですよぉ。きゅんきゅんきゅん♡♡!」

「うう。待ちなさい! 鬼神透龍! しかし菩薩なんて。そんなはずは……」


 ニュルンルンが高速飛翔してくる。

 ああもうめんどくさい。


 空飛ぶ女神に追いかけられるのは懲り懲りだ。

 俺はエレベーターの手前でニュルンルンの手を取る。


「ひゃっ!」

「あのさ。いくらくれんの?」

「ぇ、なぜ反応できた?!」


 実のところ俺は、ニュルンルンをギリギリまで焦らしていた。

 焦らした方が、こちらの要求が通りやすいからさ。


「人類語録先生計画って奴。受けてやってもいいぜ。金次第だがな。あと配信の取れ高もか」


 このときニュルンルンは、鬼神に未来をみた。

 なるほど、ヴェーラのいうとおりだ。


 この男に賭ければ、人類蠱毒剪定計画を勝ち抜けるかも知れない。

 ニュルンルンは鬼神に圧倒され、思わず呟いた。


「このタワーにただで住まわせてあげます。あと口座にも振り込みを」


 唖然とするリコとメルル、エンジュちゃん。


「なーんか偉そうだな。割に合わない。俺はでかい資産は不安なんだよ」

「手続きは女神たる私がやります。その代わりあなたは、女神と契約し人類蠱毒剪定計画に参加してください」


「女神と契約、ね。金は?」

「五兆円」


「現実的じゃねえ数字は好きじゃない」

「とはいいましても。女神の財源は莫大ですし」


「試しに振り込んでくれ」

「わかりました」


 15秒後。

 俺の口座に500万が振り込まれていた。

 どんな原理だ? 意味不明だが500万なら動ける。

 俺は乗ってみることにした。


「女神と契約してダンジョンで闘えばいーんだな?」

「はい。準備ができましたらここにサインを」


 ぶぅんと浮かんだ光学映像に俺はサインする。


「契約者は鬼神透龍。契約女神はヴェーラです。契約完了しました」

「は?!」


 だがここに罠があったのだ。

 契約者はニュルンルンじゃなくてヴェーラだった。


 俺はニュルンルンなら話が通じそうと思っていたが。

 この流れなら、ニュルンルンの方だって思うじゃん?


「話が違げーぞ! 契約ってあんたじゃねーの?! ヴェーラとは俺は無理なんだが?」


 ニュルンルンとヴェーラがハイタッチしていた。


「きゅーん♡」

「何も違いませんよ。とにかくあなたは今日からこのアルティメットセレブタワーの住人です。500万も振り込みましたからね」


「ぐぬぬ……」

「これから始まる人類蠱毒剪定計画。そして妖精世界と水晶世界の戦争。あなたはその特異点となるのです!」


 ニュルンルンの説明のすべては理解できなかったが、俺はとんでもないことに巻き込まれたらしい。


「ったく。金が入るならいーよ!」

「話が通じる人で何よりですよ!」


 そしてニュルンルンは異世界の向こうへと消えていった。

 ヴェーラだけが残される。


「よ、よろしくね、鬼神きゅん」


 今更ヴェーラはもじもじしていた。


「お前は美人で爆乳だけど。なーんか無理。怖い」

「そんなこといわないで!」


 アルティメットセレブタワー最上階で俺は女神との契約が成立し、謎の闘いに巻き込まれることとなった。


 奇妙なのはリコやメルルが、ヴェーラと仲良しなことだった。


「ヴェーラちゃんはいい人っぽいし。いいんじゃない?」

「僕は女神には逆らえないんだ」


「くそがよぉ!」


 その後なんだかんだで、今月の俺の月収は1000万エンになった。同接も10万人になったのでハッピーだった。 

 騒がしい日々は続きそうだ。




 鬼神が女神付きの探索者となった後。

 エンジュはタワーの一回ロビーで泣きながら帰っていた。

 傍らにはメルルが見送りに来ている。


「振られちゃったよ妖精さん」

「鬼神に告白した勇気は褒めてしんぜよう。でもタイミングがわるかったよ」


「どうして振られたんだろう。私を屍田という強者からNTRできたのに。リコさんの方に向かうなんて……」

「いいや。鬼神はちゃんと奪っていきましたよ。NTRをかましたんですよ」


「そんなことは……。だって私は現に奪われてません」

「いいえ。鬼神はNTRしました」


「何を……」

「あなたの心をね」


 エンジュちゃんは悲しげだがどこか満足げでもある笑みを浮かべた。


「でも。生きてて良かった。あの人はこれからも乱暴でめちゃくちゃで破天荒なくせに。人を救っていくのよね」

「どうでしょうかねえ。鬼神は僕の不肖の弟子ですが。ひとつだけわかることがありますよ」


「なに? 妖精さん」

「彼は鬼であり神であるということだよ」


「ふふ。何も答えになってないじゃない」


 エンジュは生きていた喜びを噛みしめた。


 鬼であり神である男にとっては、命を救うことなども楽勝なのだろう。


 命を拾った日の月明かりは、朝の日差しのように暖かった。


――――――――――――――――――――――――

第一部終了です!

続き希望のコメントを頂きましたので、100話目標でやります(ちから尽きるかも)


もしよろしければギャグ漫画枠のノリでレビューお願いします。

レビューくれたらやる気でて完走できると思います。


一区切りですので、謝辞をば。


コメントや☆評価くれた方々、ありがとうございました。

続き希望してくれた方々は、とくに感謝ですm(_ _)m 


二部の予定はクソ上司satugaiとか神satugaiとかです。

物騒なこと言っちゃ駄目ですよね。がんばって殺害します!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る