第22話 鬼神の瞬殺拳
俺は5人の野郎集団をみて『リコと行動していた騎士団なのか』とあたりをつけた。
山羊鬼と闘っていたとき、そういえば近くに居た気がする。
山羊鬼の斧の突風で一撃で吹き飛ばされていた雑魚共だったが、今はリコを前にイキりたいらしい。
浅黒いイケメン、罪坂が口を開いた。
「これはこれは。先日の謎のおっさんじゃないですか。動画は見せて貰いましたよ」
罪坂は引き下がらない。
せっかく『見逃してやる』と言ったのに。馬鹿な奴らだ。
「ぶっちゃいいますけどね。鬼神さぁん。ここは迷宮なんすよ。バレなきゃ何をしても許される。殺人、恐喝、薬物売買……。綺麗事だけじゃ、やっていけませんからね。女だって一緒ですよ」
罪坂は俺をみて、途端に丁寧な態度になった。撮影されることを警戒していたのだろう。
そして後ろ手ではスティレットを構える。
「俺にどうして欲しいんだ?」
「それはね……。死ね!」
罪坂の
同時に他の騎士団もまた、5方向から斧、槍、剣、薙刀を取り出し、俺に向けて刃を放つ。
「鬼神さん!」
リコが叫ぶ。
自分の心配が優先だろうに。まったく。
俺は悠々と5つの刃を見据える。
当然、刃は届かない。
断末魔をあげたのは騎士団だった。
「ぐぁぁああああ」
「がああああ?!」
「がっはぁぁああ?!」
5人が同時に痺れてうずくまる。
「がっは……。なに、を、した?」
「……マナを電気に変えれるだけだよ。あと、お前の言いたいことはよーくわかるんだ。迷宮では何をしてもいいってな。リコとも昨日は、いい時間を過ごした」
「良い時間ってまさか……?」
「恥ずかしいのでご想像にお任せするがな」
5人の顔が歪んでいく。
まさか人生で俺がNTRするときがくるとはな。
「なんで。なんで、おっさんなんだよ?」
痺れながらも、罪坂が立ち上がる。
意外と根性あるな?
「俺だってわかんねえよ。ただ俺が山羊鬼を殺さなかったらお前らだって殺されていた。俺はリコを救ったが、お前らを救ったってのもあるんだ」
「俺に恩を着せるんじゃねえ! こんな屈辱、認めるわけにはいかねえ!」
罪坂の周囲に魔方陣が展開する。水晶のマナの力を行使したのだろう。
「俺のクラスはアサシンだ。表向きはパラディンだがな。このスピードにはついてこれまい!」
しゅんしゅん、しゅんしゅん、と罪坂が樹木を蹴り高速移動。残像となった。
しゅんしゅん、しゅんしゅん
しゅんしゅん、しゅんしゅん
ごぉぉ!
罪坂はすさまじいスピードで、残像となっていく。
「鬼神。てめえがマナを使った瞬間、そのラグを狙って、首を刈り取ってやる! そしてこの現場をみたお前は口封じだ!」
しゅんしゅん、しゅんしゅん。
俺は余裕で応じる。
「あいにく、あんまり装備が整ってなくてね。水晶も少ないんだ」
しゅんしゅん、しゅんしゅん。
「なら、このまま死に晒せ!」
残像となった罪坂のスティレットが俺の首に迫る。
だが俺にしてみれば、その速度は順応できるものだった。
「オラァ!」
どごぉ、と。
俺は拳のみで、罪坂を地面に叩きつけてしまった。
「がはぁ……。な、なぜ……」
「マナを使うまでもない。この迷宮に挑み続けたからか、俺の身体には常にマナが染みこんでいる」
だが残る4人の騎士団は止まらない。イエスマンだからか、罪坂に従っていた。
「うおおぉお! 罪やんの仇!」
「ったく。しょうがねえなぁ」
俺は身体加速を使用する。
生身の俺>マナ使用の罪坂なので、強化すれば四人相手でも余裕だろう。
「オラァ!」
『がっはぁ』
「オッラァ!」
『ぐっはぁぁ!』
「オラオラオラぁ!」
『ぎ』『がはぁ!』『ぎゃあああ!』
俺の拳だけで断末魔をあげ、四人同事に平伏してしまう。
武器を使ったら殺してしまうからな。
「さーて。どう料理してやろうかな。まずはリコに謝ってくれよ」
だが罪坂は屈しないようだった。
「お前……。俺たちを殴るなんて取り返しのつかないことしたなぁ。俺たちのバックには〈鰐太刀組〉が控えてるんだぜ」
「ふぅん」
「薬物を売ってるヤクザだ」
「あっそう」
「ポリスだって手が出せねえんだ。外国の軍隊とも繋がってる」
俺はそんなことよりも、気になることがあった。
「なんかお前ら、モテそうなんだよな。まっとうに生きれば、普通に彼女とかできそうなのに」
「女なんて腐るほどいるから振りまくってやったよ。俺がほしいのは女優とか芸能人とか、ステータスだからな」
話をするたびに、俺はなんだかムカついてきた。
「もう300人は食ってきたぜ。おとがめなしだからよぉ。おっさん。てめぇのことは俺たちのバックが黙っちゃいねえ」
「鰐太刀組のことは知らんが。敵対組織の〈虎狼組〉の奴なら助けたことある」
「……は?」
以前会社に勤めていた頃から、この迷宮では色々なことがあった。
新たなシノギを巡ってヤクザが来ることもしょっちゅうだったのだ。
「魔獣に襲われたところを俺が助けた。だから虎狼組と接点があるんだ。深く関わるわけじゃないが……。知り合いの敵対組織っていうなら容赦はいらねえな」
「あ、あ、な、なん?」
「まあ可愛そうだから教育にとどめてやるよ」
俺は瞬時に五人をしばりあげた。
「は、はやすぎる! 何をする気なんだよ?!」
「おうい、リコ」
俺はリコを立ち上がらせ、スマホを持たせた。
「ここに脳波アプリがある」
「……あの。助けに来てくれてありがと」
「無事ならいい。あと、まだ終わっちゃいねえ。この脳波アプリをみろ」
リコは脳波アプリをみやる。
「よくわからないけど。これをどうするの?」
「こいつらを修正するんだよ。殺したら足がつくからな。俺はこれでも怒っている。だけどな。感情がすり減っているから表に出せないんだ」
俺は虎狼組から教わった〈修正〉をすることにする。
「だからリコ。お前が代わりに怒ってくれよ。俺は、手を動かすことしかできんからな」
そして俺は鉈とハンマーを取り出し、5人の騎士団を見おろした。
「ありがとう、鬼神さん」
リコは覚悟を決めたようだった。
それでいい。ちゃんと屈辱は晴らせよ。
俺ができるのは、手を動かすところだけ。
実際にケジメをつけるのは、リコだ。
リコがすっきりしておかないと、なんだよな。
でも覚悟が決まってる女でよかったよ。
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