第21話 鬼神到着
罪坂蛮と騎士団に囲まれ、樹に縛られたリコは涙に塗れていた。
「ひゃーはっははぁ。これが恥辱という奴だなぁ!」
罪坂はスマホを構え、服の破かれたリコを撮影している。
「う、うぅ……」
「この裸を拡散されたくなかったら、この先も俺の牝になることだな」
「罪坂さん。そろそろ犯しましょうよ」
「もう我慢できねえっすよ」
脅しのための撮影は十分しただろうということで、騎士団達が急かす。
「おぅ、そうだな。そろそろやっか!」
罪坂は上半身を露出させる。鍛え上げられた肉体は格闘家のように腹筋が割れ、全身が引き締まっていた。
騎士団達もまた「へへへ」と下卑た笑みを浮かべ、服を脱ぎ始める。
「あんたたち……。こんな迷宮の森の中で、こんなことして……。魔獣に襲われるとか考えないのっ?!」
「山羊鬼以外は5人もいれば余裕だろ」
「こないだはそれで、いっぱい仲間がやられたじゃない!」
「ああ。あれは肉の壁にしたんだよ。俺様にダメージが入るなんてありえないことだからな」
「なんて、ひどい……」
「だって痛いのって嫌じゃん? でも他人の痛みは俺は感じないからな」
「心が、痛まないの?!」
「……むかつくこというなよリコちゃん」
「ぐぅっ!」
腹を蹴られる。丸くなって耐えるが容赦がない。
(ダメだ。こいつは正真正銘のサイコパスだ。配信ではいい人だから、ちょっといいかなって思ってたのに。ダマされていたんだ。決して接触するべきじゃなかったんだ)
「あのさぁリコちゃん。心とか優しさとかって、意味あんの? 俺にそういうの求められるとかウザいしキモいんだけど。そもそも人間って運用するもんじゃん?」
『そうだそうだ』と仲間もまくし立てる。
罪坂のいう『人間の運用』というのは仲間以外のパーティを特攻させるというものだった。
当然、多くの訴訟を受けてきたが彼のバックには薬物売買の資本が控えているので、すべての訴訟に勝利してきた。
「……それ以上蹴ると私はあんたのことを嫌いになるわ」
「そうマジになるなよ。好きとか嫌いとかじゃねーんだからさ。楽しくやろうぜ楽しく」
「あんた……。この状況が楽しいの?」
「え? 楽しいから蹴ってるんだけど?」
リコはもう理解ができない。ここまで話が通じない人間がいるのだろうか。
「俺としては新進気鋭の声優探索者インフルエンサー輝竜リコを手込めにすれば、もっともっと楽しくなるんだけどさあ。他の女はこうやって殴ったり蹴ったりしてると、だんだん従順になっていくもんだけどなあ」
「私は違う……。どんなに殴られても、殺されても……。あんたの言いなりにはならない」
「萎えるわ。そういうの、萎えるんだけど。なぁ!」
リコのうめき声が森にこだまする。
そんな罪坂の折檻をみているものがいる。
妖精として顕現した白樺メルルだ。
「配信、配信、配信、鬼神のために配信!」
メルルの声は小声なので聞こえない。
姿も小さく、森の中では保護色なので、罪坂らにはみえなかった。
ユユニ水晶の力でアプリとして顕現した妖精なので、スマホカメラなどの機能が、メルルにもインストールされていた。
「ぽちっと」
メルルの眼がカメラとなる。
その映像は鬼神のスマホに送信されるのだった。
『うぇーい!』
罪坂らがリコの拘束を解く。
リコはぐったりして生気を失っている。
これから行為が始まれば、彼女の心は壊れてしまうかもしれない。
メルルはカメラを向けて解説をする。
「うわぁ。ひどいことをされています。ひんむかれています。まあ僕も裸の妖精なんですけどね。えっち、えっちです。もっと近づいてみてみましょう……」
妖精メルルは現世に顕現したばかりなので、あまり空気が読めなかった。
メルルは羽をパタパタとしつつ、さらに接近する。
「乱暴な男が五人で、女の子を囲んでいます。みんな薄ら笑いを浮かべています。笑いとは本来、捕食者が獲物を食べるときの表情って聞いたことがあります。おっそろしいですねえ!」
元気に解説していたので、気づかれてしまう。
「なんだぁ? この虫は」
「ぴぎぃ!」
メルルは騎士団のひとりに掴まれてしまった。モヒカンヘアをした恐ろしい顔の男だ。
「ひええ! 鬼神助けてぇ!」
メルルが叫ぶと、リコがぴくりと生気を取り戻した。
「お、鬼神さんが、来てくれた?」
やっぱり、追ってきてくれたんだ。
リコが顔をあげると遠くに懐かしい影がみえた。
見た目は冴えない普通のおじさんだ。中肉中背にみえるが身体は鍛え抜かれている。
罪坂らも、背後に迫る鬼神を認めた。
「なんだぁ? てめえは?!」
5人の騎士団が武器を構える。
鬼神はリコのひんむかれた様子みて、ぽつりと尋ねた。
「お前らもモテないクチなのか?」
「え?」
リコは素っ頓狂な声をあげた。
鬼神は騎士団に向けて諭すように告げる。
「モテないからって、やっていいことと悪いことがあるだろ。一線を越える前に帰るんだな」
リコは罪坂らを瞬殺してくれることを期待していた。
颯爽と登場して助けてくれて、一安心できるものと思ったのだ。
だが鬼神は冷静だった。
「だからな。お前ら、もう帰れよ。一線越えてねーなら、見逃してやるからさ」
鬼神は即殺したい思いで一杯だったが、飲み込んだ。
ブラック企業の経験からか、若い衆をみれば話を聞いたり、諭してしまう習性があったのだ。
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