第23話 修正わからせ祭り


 俺は拳で吹き飛ばしたちんぽ騎士団を縛りあげ、樹にくくりつける。


「ゴキブリが家に出なくなる方法がある。薬剤で殺すよりもずっと良い方法だ。この〈修正〉はゴキブリの調教によく似ている」


 リコはきょとんとしていた。


「何を、する気?」


 俺はこれから行うことの前に〈ゴキブリの調教〉について説明する。


「まずゴキブリをな。ワンカップの缶で捕獲をするんだ。捕獲の時点で難しいが、リターンが大きいから最初はがんばる」


 俺は手でカップを握る動作をした。


「そんで捕獲したらな、缶の周りをガンガンガンと叩くんだ。するとゴキブリは〈恐怖の記憶〉を受ける。その脳波アプリと一緒だ」

「恐怖の、記憶……」


「案外頭がいいものでな。恐怖の記憶は覚えてるんだよ。あとは殺さずに、ゴキブリをあえて逃がすんだ」

「逃がしちゃ、ダメなんじゃないの?」


 俺は笑顔でリコに解説した。


「逃がしたゴキブリは仲間に〈恐怖の記憶〉を教えるんだ。『あの家に行けば怖い目に会うってな』。だからこいつらにも、俺らに手を出したことをわからせる」


 縛られた罪坂が何かを喚き始める。


「『わからせる』だと? だがお前らに待っているのは社会的な死だぜ! わかったならさっさとこの縄をほどくんだな」


「サイコパスはそうやって、口やかましく不正確な指示を出しまくるから、自分の立場が高いのだと勘違いしてしまうものだ」


 罪坂をみていると、俺を『肉の壁』にしたクソ上司を思い出す。


 口をテープで塞ぐことも考えたが、絵面が悪いな。

 まあ放っておいても、戦闘の音で、こいつの声はかき消されるだろう。


 しかし、こんなカスに限ってモテやがる。

 そこだけ、ムカつく。

 俺は優しく微笑んでみせる。


「安心しろ。俺は優しい。お前から何かを奪うということはしない。五体満足。その五月蠅い口もテーブでしばったりはしない。暴力もこれ以上は働かないよ」


 といいつつ、鉈と金槌を取り出した。


「な、なんだ、それは?! 歯を抜く気か?」

「その発想がブーメランだっつうの。そもそも、かかってきたのはお前らからだ。俺が返り討ちにしたのも正当防衛だが……。これ以上は拷問になっちまう。だから俺がこれからやることは……」


「ひぃ!」


「お前らを、あえて、守る」


「……は? はは。なんだよ。驚かせやがって。とんだぬるいやつだな。やれるものならやってみ……」



 俺の視界の端に巨大な虫めいた妖精が飛んでいた。

 メルルだ。


「鬼神ぃ! 準備はできたよ!」


 スマホの撮影アプリが〈メルルの眼〉と連動しているので様子を確認。

 撮影は良好。

 

 準備はオーケー。

 配信タイミングは、もう少し後からだ。


「さて。鬼神ショーといくか。俺がお前らを守ってやるよ」


 俺は笛をとりだし、吹いた。

 ぴゅうううと、音が森に響く。


 笛を使い、迷宮魔獣を呼び寄せたのだ。


『むううぅうううう!!』と、遠くから奇妙な唸りが響いてくる。


「ま、まさか……」


 ちんぽ騎士団達が蒼白となる。


「ああ。そのまさか、だよ」


〈果て成る水晶の迷宮〉には、ゴブリンオーク、サーモンウルフ、ビタミンゴーレム、オタマビグル、メタルラビットなどが生息しているがいずれも他の迷宮の深層レベルの敵だ。


 今いる〈森エリア〉は浅い階層。

 だが俺がふいた笛は、数十階先の階層まで響く特殊な波長をもっている。


 つまり、深層の魔獣を呼び寄せたのだ。


 迷宮魔獣の足音が迫ってきた。

 俺は罪坂に語る。


「マッチポンプってのをずっと恥ずかしいことだと思ってたんだ。だがよぉ。お前をみて確信したよ。ズルした奴が勝ちなんだってな。リコ。アプリの脳波をみていろよ!」

「は、はい! 脳波グリーン。ちょっとイエロー……」


「メルル。てめーは〈眼〉だ。開始しろ」

「オーケーオーケー! 開始ポン!」



 メルルの眼が臨場感のあるカメラになってくれた。

 露骨にスマホを出していないので、罪坂達には撮影は気づかれていないようだ。


 便利な妖精をゲットしたものだぜ。


「ひええええ! 怖いよぅ。無理だよぉ。逃げるよぉ!」


 迫りくる魔獣を前に、メルルが逃げようとしていた。

 もう少しがんばらせる必要があるな。


「この、ポンコツが! こっちこい」


 俺は虫のごとく飛ぶ妖精を掴み、俺の胸に治める。


「ここなら安全だ」

「鬼神、優しい」


「俺が死んだらお前も死ぬがな」

「やっぱり鬼畜ぅ!」


「お前が〈眼〉になって、俺の闘う目線を配信すんだよ。これがリアリティだぜ!」


 リコも俺の後ろに立ち、深層からくる魔獣を見据えている。


「鬼神さん。魔獣の詳細、教えたほうがいい?」

「見えるのか?」


「レンジャーの能力には自信がある。あなたほどじゃないけど……」

「十分だ。敵がわかれば装備の準備ができる。教えてくれ」


「ミネラルゴーレムが多いね」

「じゃあ重装備だな」


 俺の〈鉈と金槌〉は、与えるマナによって様々な形状変化が可能だ。


 山羊鬼のときはイーグルハチェットと、ブーストハンマーを選んだが、乱戦のときは別の設定がいい。


「今回は〈ドリルハンマー〉にしよう」



 金槌にマナを充填。

 柄が伸び、持ち手には籠手がつく。


 ハンマー部分も巨大化し、先端にはドリルがきゅいんと生まれた。


「ゴーレムの次に多いのはサーモンウルフ」

「じゃあリビングハチェットにするか」


 鉈にマナが充填されると、ハチェットの先端に〈顔〉が生まれた。


 リビングハチェットは〈自立する鉈〉だ。ケラケラと鉈が笑っている。

 生物の血をすすると満足するようだ。


「お前も腹を空かせているようだな」


 ケラケラケラと笑うハチェットは、俺の左腕の制御から逃れたいようだが、力尽くで押さえつける。


 強い武器というのも困りものだ。


 森の向こうからは主にミネラルゴーレムと、サーモンウルフが歩いてくる。あとは少数のゴブリンオーク、オタマビグル、メタルラビットなどがきた。


 罪坂達を見るや、魔獣達は食料と思ったようだ。


 サーモンウルフが喉を鳴らし近づいてくる。


「ひいいいいぃいいいいいいいいぃぃぃ!!」


 ミネラルゴーレムは直接たべるわけではないが、人間に触れると皮膚が石灰化。やがて全身が崩壊する。


「うわあぁっぁあああああぁああああああ!!」

「あああああああああああああああああああああ!!」

「あがががっががががぁうううううぁぁああああああ!!」


 罪坂達は5人の騎士団の断末魔が響く。

 始めは様子見をしていたが、話す限り生粋のサイコパスであることは間違いない。


 だから〈修正〉をすることに躊躇いはない。


 左腕のリビングハチェットが唸り、ひうんと鞭のようにしなる。


 リビングハチェットは罪坂達に迫っていた、オタマビグルの頭部を食いちぎり『ゲラゲラゲラ』と笑った。


「おいおい。まだ食って良いっていってないだろ?」


 ハチェットは罪坂達の首元で旋回しつつ、今度はサーモンウルフをばくりと食べた。


 どぼぉ! と魔獣の血しぶき!


 扱いにくい武器だが、自動追尾の武器なので、楽といえば楽である。


 さらにミネラルゴーレムが罪坂達騎士団に迫る。


 俺はしばらく眺めている。

 ミネラルゴーレムが、樹に縛られた騎士団に抱きつく。


「がは、もががああ!」

「ぐぅあぁあああぁ!」

「むむああぁあああ!」


 騎士団達のゴーレムの腕に触れられた部分が徐々に石灰化していった。


 あれ痛いんだよなぁ。治りにくいし。


「たひゅ、けふぇくれぇ!! 守ってくれるって?!」


 罪坂の眼が俺を見た。

 俺はそれなりにがんばって戦っている。


 キンキンキンキンキンキンキンキンキン!

 キンキンキンキンキンキンキンキンキン!


「ふぅ。おーし。リコとメルルは元気だな」


 まあ、守ってやるっては言ったけどさ。

 俺一人でこれほどの魔獣相手って苦労するじゃん?

 

 それに。

 リコにひどいことをしようとした〈輩〉が、何を都合のいいことを言っている?


「リコ。こいつらの脳波は?」


「凄く、乱れているよ。オレンジ、レッド……。すごい!『脳が破壊されていく様

子』が手に取るようにわかる!」


「だからいったろ。『わからせる』って。俺の女に手を出したら、どうなるかってことをなぁ!」


 魔獣を切り刻むと、ほとばしる流血が、騎士団共に降り掛かった。


 リコの痛みの分だ!



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