第12話 配☆信☆爆☆伸びを確認
朝起きると、昨日の行為の跡があった。
迷宮の奥地。森に囲まれた神殿で、なんて野蛮なことをしたのだろう。
後悔はないし満足さえしているが、冷静に考えると、とんでもないことをした。
「おはよ。鬼神さん」
リコが目覚めてくる。タオルで裸体を包んでいた。
「くしゅん」
夜のうちは火を焚いていたが、薪はもう燃えかすになっている。
俺は彼女の肩に服をかける。
「あ、ありがとう。あれ? このジャケットは?」
「俺の予備だ。冷えてきたから温めておけ。火は今焚く。始めは薄着で火に当たってから、ジャケットを着れば保温できる」
「……やっぱり優しいじゃない」
俺は無言で火を起こす。
水晶を使えばマナの力を使役できるが、あえてライターで火をおこした。
「温かいね」
リコが話し始めるも、俺は無言で朝食の肉を焼く。
ゴルドフェニックスの肉はジップロックに保存していた。
「私、ハーブとか持ってるけど?」
「助かる」
リコが刻んだハーブを出してくれた。ハーブは肉につけ込むのがベストだが、今は凝った料理はできない。
「直接ハーブと一緒に炙るか」
しっかりと火を通す。かぐわしい肉の匂いにハーブの香りが混じって食欲をそそった。
ゴルドフェニックスの丸焼きができる。
ふたりでさっそくかぶりついた。
「この肉。本当に回復がすごいのね」
「ああ。この迷宮でしか見たことがない」
話すことがないので、黙々と肉を食べる。
リコはどこか顔を赤くしている。昨日のことが恥ずかしかったのだろうか。
俺の中に微かな罪悪感が芽生える。
初体験だったんだっけな。
嘘かと思ったが、肩は震えていたし泣いていたし、ひどく痛がっていたし、今ももじもじしている。
(まあいいさ。初体験があまりよくなかったなんて。よく聞く話だ)
「あ、あの」
リコが口を開いた。
「昨日は、その。すごくよかった」
「……何がだ?」
俺は信じまいととぼけてみる。
彼女が辛くならないように配慮はしたつもりだが、俺だって経験が浅いのだ。
「だから、その。あなたが。よかった」
「……俺はクズだよ。おっさんだしな」
「むー! 自分をそんな風に言わない方が、いいよ!」
「事実だろ」
リコはむぅ、と頬を膨らませた。
「だからさーぁ。あなたが自分をクズっていったら。あなたをクズと思ってない私が嫌になるでしょ」
「お前。調子に乗っているな?」
「ええ。調子に乗っているわ。悪い?」
「その自信はどこからでてくるんだよ」
「強い人に助けられたら、価値があるんだって。私生きてていいんだって思っちゃうものでしょ」
話が見えない。
「だから鬼神さんも。自分を卑下しちゃだめ」
言われて悪い気はしないが、俺はどうしてもネガティブなんだ。
「俺は金もなければ配信力もない。インフルエンサーにはわからないだろうが、俺の配信力の低さは圧倒的だ。絶望をみせてやるよ」
俺はおもむろに携帯を取り出す。
充電が切れていた。
「どういうことだ? 昨日まではほぼ満タンだったはずだ」
予備のバッテリーを入れる。しばらく肉を食ってから、再び電源を入れる。
ぴこんと通知がなった。
昨晩から鳴っていたようだが、なんだろう。
ぴこん、ぴこん、ぴこん、と通知は鳴り止まない。
「電源が減っていく?」
ぴこん、ぴこん、と絶え間ない。
ぴこん、ぴこん、ぴこん、ぴこん。
ぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこん。
ぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこん、ぴこんぴこん、ぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこんぴこん、ぴこん、ぴこん……
「なんじゃこりゃあ!」
「通知の設定は切らないと!」
「だーから! 俺はインフルエンサーじゃない。毎日一件の通知でも待ち遠しいんだよ」
どうにか荒ぶる携帯を抑えつつ、通知の設定を切る。
やっとぴこん音が止んだ。
「はぁはぁ。どういうことだ?」
「バズったんじゃない?」
簡単に言ってくれる。
「んなわけないだろ。俺がしてたのは、迷宮探索だけだ、チャンネルだって過疎で……」
「そういえば私。撮影してた。鬼神さんの携帯で」
遅れて聞かされて、俺は唖然とした。
「は?」
「あなたの勇姿を、実況してたの。皆に」
俺は自分のページをみやる
チャンネル登録904件
再生数5501回 グッド153 バッド39
コメント93件
朝になって、世の中が活動を始めたせいかさらに増えていく。
チャンネル登録905回、923、972、991、1000。
再生数5603回、6200、7000、7103……。
俺は流れるコメントを読んでいく。
『おっさん、強すぎるだろ』
『リコちん精鋭部隊を瞬殺した奴を瞬殺ってどんだけなの?』
『最強を倒したから最強』
『山羊鬼とか都市伝説と思ったわ』
『SSS級の強さはガチ』
『斧で風がでるとか。無理ゲーだろ』
『竜巻』
『リアルダーク○ウルさんですか?』
『無理ゲーを無理ゲーで超えるおっさん』
『おっさんの名前は何なの?』
『チャンネルをみる限りとおる』
『普通』
俺はとあるコメントを拾う。
『トール神・降臨』
自分のしたことは何気ないことだと思っていたが。
凄まじすぎる伸びを見せていたのだった。
撮ったのは昨日の昼だ。
一日にして再生数2万の大台に乗っていた。
チャンネル登録4007件
再生数20003回 グッド941 バッド200
コメント353件
にまで成っていた。
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もし面白いと思って頂けましたら、☆☆☆評価、♡、レビューやコメントなどよろしくお願いします。
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