第33話 弱すぎる
丈晴は目を開いた。
しかし、体に物凄い違和感を覚える。下を見る。自分は車椅子に乗っていた。
手をグーパーする。
手が、小さい。これは、丈晴自身の手ではなく、女の子の手のようだった。ついで自分が女子用の制服を着ていることに気が付き、『ああ彩を暴いたのか』と思った。いや。それはしなかったはずだ。
記憶が徐々に戻る。ただし記憶は、彩の視点のものであったけれど。
「おまえは、誰だ? 平家丈晴か?」
尋ねる言葉に目を向けると、そこには脊谷教授が立っている。彩を通じて、彼が何をしようとしているのかはわかっている。
ただし彼の綿菓子が部屋全体を覆っており、部屋にいる全員を暴き、浸透しているようだった。
なるほど、これこそが『七瓶』か。
そういうことができるのか。
恐怖か、もしくは好奇心にさえ見える笑顔に脊谷教授の顔は歪む。
「なぜ、そこにいる?」
丈晴は言葉を選ぶ。
「暴くときは、ただフラスコが相手を読むわけじゃない。きっと相互だ。だから自然と、こっちに」
脊谷教授は、息を呑んだ。
「つまりおまえは『ホムンクルス』だというのか? いや、そんなことは……あり得ない」
「ホムンクルス?」
丈晴が首を傾げると、聞き馴染みのある声がした。
「それは小さな化物だよ」
顔を向けると、そこには絶冬華がいた。椅子に縛り付けられているが、表情はいつもと変わらない。
「丈晴くんの感覚の通り、一方通行ではない。もし相手を読み取ろうとすれば、同時に自分の情報の一部が相手に伝わってしまう。乗っ取れば、きっとどこかの一部がとられる。それが積み重なって、いつの間にかフラスコの頭の中に住み着くんだよ。ホムンクルスと呼ばれる小さな化物が。つまり君は、丈晴くんであって丈晴くんじゃない」
「僕は、何?」
「彩ちゃんの中に住み着いた丈晴くんの情報、もしくは意志って言ってもいいかも」
「いや、そんなことはあり得ない」脊谷教授が言った。「本来それは、夢に出てきたり、あるいは白昼夢を見せたりする程度なものだ。それが、本体の主導権を奪う……?」
「だからさ、脊谷教授は勘違いしてるんですよ。これはその程度じゃなかったっていうこと。平家丈晴の出力は、あなたの想像の埒外にある」
縛り付けられている絶冬華は堂々としており、反対に脊谷教授は落ち着きを失ってゆく。
「だとしても、関係がない! 私は『七瓶』だ。ホムンクルス風情がそこにいたとして、何ができるわけでもないだろう」
オーラが侵食され始めた。
部屋全体に膨張していたそのすべてが彩の体に、つまりは丈晴に向かい包み込んだ。そのすべてが『支配する』と言っていた。
丈晴は思った。
これが『七瓶』か?
それではあまりにも。弱すぎるじゃないか。
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