第27話 スタンガン

 脊谷政宗の目の前で、月魄絶冬華は椅子に縄で縛り付けられてゆく。

 相変わらず表情は変わらず、それは面白味に欠ける。


 ふとスマホに届いたメッセージを見ると、どうやら近藤彩は無事、平家丈晴を先頭不能状態にしたようだ。


 予定通り。


 平家丈晴は月魄絶冬華を調べる中で浮かび上がった『フラスコ』だ。相手がフラスコの場合、こちらが『解』を行えば同様の能力があると気づかれるに違いなく、手の内を明かさずに捕らえることが得策だと思われた。万が一、こちらよりも能力が高ければ危険には違いない。


 ただし、その場合の対処は難しくない。誰しも、大切な人間に危害を加えるのには覚悟がいるものだ。であれば、大切な人間を敵に仕立て上げてしまえば、その人間は途端に脆くなる。平家丈晴は先日重傷を負ったと聞いたが、それももしかすると操られた友達にでも刺されたのかもしれない。


 近藤彩は適任だろう。

 調査した結果、平家丈晴にとって親しいのは近藤彩と月魄絶冬華だけだ。近藤彩は予定通り平家丈晴を戦闘不能状態にした。平家丈晴は現在他の仲間によって、間も無くここに運ばれる。


 さて、気を失った平家丈晴を見たとき、月魄絶冬華はどんな反応を示すだろう。あるいは、その前に絶望の感覚を示すことはあるだろうか。


「それでは皆さん、機器を」


 脊谷政宗の言葉に従って、男子生徒の一人が絶冬華の頭に検査用の機器を取り付けた。その際も絶冬華は一切反応を見せない。


「月魄さん。例えば、電気の痛みはどうでしょう」

「……どう、とはなんですか?」


 脊谷政宗は引き出しからスタンガンを取り出した。


「そもそも、痛みは怖くないですか? ドラマのようにすぐに気絶することはない。電気は結構痛いものです」


 一歩二歩近づき、彼女を覗き込んでも絶冬華は表情は変えない。そしてやはり彼女はオーラを発しない。

 スイッチを入れると、スタンガンはバチバチと光を放つ。それを見ても彼女は一切の表情を変えない。彼女の首元にそれを当てた。


「ああああああああああああああああああああああ――」


 やっぱり!

 痛みはあるのだ!

 ついに表情が変わった!

 それでも、彼女のオーラが現れることもないし、モニターで確認しても脳は感情を見せない。


「ふぅむ。頑なですねぇ。もう一度」


「ああああああああああああああああああああああーー」


 まただ。

 彼女は微かに汗をかいて見せているし、悲鳴をあげ表情は苦悶。

 それでも、脳内の変化は非常に機械的。

 脊谷政宗は絶冬華から距離をとり、スタンガンを置いてみせた。

 月魄絶冬華は放心している。


「今、どんな気持ちなのでしょう」

「……さぁ、言う必要を感じない」


「困ったものですね。肉体的な痛みは本当に関係ないようだ。では、精神的な苦痛はどうでしょう?」

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