上手く行かない恐怖こそ、欲しいものかもしれなかった

第23話 凪の雰囲気

 近藤彩は改めて学園に通うようになってから、少し楽しくないと思っている。

 丈晴の能力の話を聞いて、なるほど大変なことに巻き込まれているのだなと理解しているものの、以前は毎日のようにしゃべっていた大切な友人と距離をおくのは辛いものだ。


 それに。


「いや、絶対平家くんは彩のことが好きだと思うな。月魄さんと付き合ってるとか何かの間違えじゃない? 脅されてるとか」

「脅されてるって、あんな可愛い子が脅してまで人と付き合うとか、ないでしょ。もう大丈夫だって、凪。別に気にしてないし」


 こういった、野次馬的な話を適当にいなすのも面白くない。丈晴と絶冬華が付き合っているのが演技だと知っている、とはいえ認めてしまうのは全然おもしろくない。それに、絶冬華と丈晴は側から見ていて本当に仲良く見えるときがある。


 もしかすると、付き合っているふりをしている、というのも壮大な嘘なのでは? なんて意味不明なことも考えてしまうが、それこそ意味不明なのでそんなこともないのだろう。


 しかし、演技が本気になりはしないだろうか。

 絶冬華は本当に可愛い。女である自分でも憧れるほどに。

 丈晴も無愛想ではあるが格好いい。正直、お似合いだ。


 それに対して、自分は。だから別に、そもそも考えてもしかたないのだと言い聞かせる。


「大体みんな騒ぎすぎだと思うな。別に丈晴と絶冬華が本当に付き合ってたとしてもそんなに騒ぐことないと思うし。別に他人のことなんてそんなに気にしながら生きていく必要ない」

「でも彩は気になるんでしょ?」


「むーん」


 チャイムが鳴って、凪は自分の席に戻った。

 ふぅ、とため息をつき、彩は改めて首を傾げる。


 いま目の前で自分に話しかけていた凪は。

 誰だろう。


 いや、凪なのだが。

 しかし、彩が不登校になっていた以前の凪とは違う気がする。さらに言えば、お見舞いに来てくれた日とも違う。


 話す内容は凪っぽいし、見た目的にもそう変わっているわけではない。

 でも、何か芯の部分が違うとでも言うのか、雰囲気が変わったのか。

 何だろう。彩にはわからない。


 恋でもしたんだろうか、と思ったが、そんな感じにも見えない。


 そういえば、凪は以前にもそんなことがあったな。

 あれは確か、この学園に入ってすぐのことだった。

 あのときも凪の何が変わったかは一切わからなかったが、まとっている空気が変わったのだ。

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