第17話 ハズレ

 そのマンションから離れるとき、丈晴は目隠しをされ車に乗せられた。

 どれくらい乗ったかわからないくらい車に揺られ、降ろされてスマホに手を伸ばすと電源が切られていた。GPS対策も万全なようだ。

 

 ずっと寝ていて起きたからか、頭がすっきりと冴えている。


 凪の記憶を頭の中に再生する。

 自己否定と『ゼロ課』への崇拝。仲介役の若い児童相談員。彼の住んでいる場所、名前も知っている。表情や息遣いさえ鮮明にわかる。


 たどり着くのは、息をするように簡単だ。

 馴染みのある繁華街から少し離れた場所に彼の住んでいる一人暮らしのアパートがある。凪はそこで話を聞いていたから。


 人間関係とは鎖。


 おそらく彼も末端の一人に違いない。彼からまた一人、二人と辿っていけばいずれ『ゼロ課』の幹部にたどり着くに違いない。


 彼を見つけたら、まずは丈晴自身が綿菓子に触れて暴く。そして、彼を通じてより上にたどり着き、幹部の考えを変化させてしまえばいい。それこそ凪にやったことと同じように。


 記憶の中の住所の建物の前に立つ。そこが児童相談員の住むアパートだ。

 間違いなく、この場所のはずだ。

 後ろには絶冬華とその仲間が控えている。


 丈晴は、後ろを振り返って面々をみた。

 絶冬華は言った。


「古めかしい、スナックがあるね。ずっと昔からありそう」


 毒々しい色の看板がそこにはあった。


「……あれ? そんなはずは……」


 そんなもの、ここにあるべきではない。

 凪を暴いた内容と違う。


 丈晴には意味がわからなかった。

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