第16話 絶冬華の本分
大丈夫だ。
できる。
丈晴は凪の綿菓子に触れ、彼女を暴きながらどうすればいいか考えた。
彩の件では失敗したばかり。彼女を歩かせることは、丈晴には叶わなかった。でも、凪を変えることであれば、丈晴はできるかもしれない。
それは、機能として存在するからだ。
凪は明確な事件があって、それをもとに人格形成されている。特定の人物の言葉を天啓だと信じ、それに応えるにあたっては正しいことを行っていると定めている状態だ。
であれば、そのことを忘れてしまえばいい。人の脳はすべてを覚えている訳ではないし、たとえ覚えていても思い出せないことだってある。
記憶の構造を暴き、再構築に次ぐ再構築。
彼女の核を、奥底へ仕舞い込んでさえすれば。
彩の時とはまったく違う。すでにある機能を使うだけ。
根気はいるが、簡単だ。
彩は望んでいる。
彩はこれからも、凪とずっと友達でいたいのだ。
――欲しいものは手にはいるよ。私が保証する
それは、丈晴の欲。欲しいものだ。たとえ、頭の外にあったとしても。
一日で三度目の能力の発動。
それは丈晴の想定よりも遥かに負担が大きく、気がつくと彼は意識を失っていた。
丈晴は、夢を見ていた。
丈晴は寝ており、金縛りにあったように動けなかった。そして、自分とは鏡写のように化物が自分を見下ろしていた。化物は人間のようであり、そうでないようでもあった。
肌を晒しているようにも見えたし、服を着ているようにも見えた。男にも、女にも見えた。
化物は、しゃべった。
――神様にでもなったつもり?
丈晴は何も答えられない。
――人を操ってそんなに嬉しい?
丈晴は何も答えられない。
――自分が正しいって、思っているんだね
丈晴は何も答えられない。
丈晴は何も考えられなかった。ただそんな中で、一点気づいたことがあった。
化物の声は、まるで母親のようだ。
目が覚めると、丈晴はベッドに寝かされていた。
ぼんやりとした意識は徐々に輪郭をおび、すぐに「高崎凪は?」と呟いていた。
「お疲れ様。丈晴くん。高崎さんは帰ったよ。それも昨日の話だから」
「昨日……?」
どうやら丈晴は一晩寝てしまったらしい。
「彼女は、変わったかな?」
「さぁ。丈晴くんにわからないのであればわからないよ」
「彼女はどうなるの?」
「丈晴くんはどうしたい?」
「……今まで通り学校に通ったり、普通の生活を続けてほしいかな」
「殺されそうになったのに、それはお人好しだねぇ」
「信じる神が違っただけさ」
信じるものさえなかったことになってしまえば、彼女の行動原理は変わるはずだ。そうなれば、きっと彩と友達を続けられる。
絶冬華はパン、と手を叩いた。
「そんな丈晴くんに朗報! 私たち『小人の友達』も、高崎さんを処分しないことにしました! 彼女にはこれからも普通に学園に通ってもらうよ」
望んでいた言葉。
しかし飛び込んできた瞬間、それは悪い冗談のように聞こえる。
「本当か? いや、それならそれでいいんだけど。爆弾を仕掛けたのに?」
「でもまぁ、私たちの組織の本分に照らし合わせればそれは当然のことかな。なぜなら、今回は丈晴くんが能力を使って彼女の人格を書き換えたんだもの。それがどの程度効力があって、どんな結果をもたらすのかを知る必要がある。監視しなきゃならない。私は小人の友達の調査員、月魄絶冬華だからね」
「マッドな組織だ」
「ご生憎様。社会正義のためにやっているつもり。思い通りになったんだから、もっと喜んでよ」
「それはそうなんだけど、結局問題は何も解決してないだろう。高崎さんは結局『ゼロ課』本体ではないし、僕が命を狙われている状態は変わらない」
「ええ、そうね。だとしたら、どうすれば安全になる?」
「……よほど、監視したいんだな」
「それはもう」
絶冬華は綿菓子を漂わせない。
それでも、笑う絶冬華の気持ちが手に取るようにわかった。
受け身であれば危険な状態が続く。しかし、丈晴は凪の頭を読み取った。だとすれば、それにすぐさまたどり着くことができる。
「じゃあ準備しといてよ。ボディーガードを」
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