第12話 彩の家へ凪とお見舞いへ
ゼロ課なる政府組織の人間が学園に忍び込んでいる。
それは一体誰だろう。
大人だろうか。職員?
あるいは生徒の可能性もあるのだろうか。もし、生徒を侵入させるのであれば絶冬華のような転校生が一番しっくりくるが、最近の転校生は彼女以外に聞かない。生徒であれば、やはり優秀な人間だろうか。なぜかパッと思いついたのは脳科学者の脊谷教授だ。何を考えているのかよくわからないし、政府と繋がりがあると言われてもしっくりくる気がする。いや、暗殺部隊だとすれば目立ちすぎだろう。
もし敵が丈晴を暗殺したいとして。
一体どんな行動をするだろう。
おそらく、丈晴が一人のタイミングで接触してくるに違いない。もしくは、丈晴が一人になるように誘導するのだ。そう考えるともっとも怪しいのは絶冬華なのだが、もし彼女であれば丈晴を誘拐するタイミングなどいくらでもあったはずなので容疑から外してしまう。
放課後。
丈晴はクラスメイトに声をかけられた。
「ほら、彩のとこ行くよ」
「あ、ああ」
高崎凪。彩の友達。丈晴のクラスメイト。
まさか、彼女が?
しかし、彼女の綿菓子は善意の緑で満ちており、とてもそういった悪人には思えない。『フラスコ』たる丈晴に、下心を持って近づくのはとても難しいに違いないと丈晴は思った。
しかし、彼女がゼロ課の差金だとすれば?
気づかれないまま操られているとすれば?
「高崎さん。一つ提案なんだけど、絶冬華も連れて行っていいかな。彼女も彩のこと心配してたんだ」
「はぁ? ダメに決まってんじゃん。馬鹿なの⁉︎」
思ったよりもはるかにはっきりとした否定。
その態度は、ゼロ課の差し金には到底見えなかった。
道中、凪は彩についてたくさん喋った。
「平家くんの入院がよっぽどショックだったんだろうね。もうぜんぜんメッセージも見てくれないみたいで。直接行くしかないんだよ」
丈晴はあたりを常に警戒する。
緑の綿菓子からして、おそらく凪は刺客ではないとは思う。それでも、別の誰かが突然襲ってくる可能性も大いにあるし、凪が操られて凶行に走ることもある。
「ねぇ、どうしたの? さっきからソワソワしてるみたいだけど」
「い、いや、別に」
「あ、はっはーん。久々に彩に会うので緊張してるんでしょ⁉︎ 平家くんって結構可愛いとこあるんだね!」
「っあ! えっと、そうなんだ。本当に、久々だから」
勘違いがいい方向に進んだので、丈晴は合わせる。
「ふふふ、彩も喜ぶと思うなー丈晴くんに会えるの」
「……そうかな」
丈晴が彩に刺された日、二人の関係は微妙だった。
「彩さ、高校入学したくらいの頃は今よりずっと暗かったじゃん?」
「そうだっけ?」
丈晴は思い出せない。丈晴にとって彩は、自分にずっと話しかける元気の塊のような存在だから。
「そうだよ! 中学の時は本当に明るい子だったんだけど。あ、うち同中なんだよね。でも、卒業前に事故にあっちゃって、ずっと頑張ってた陸上をやめることになっちゃったの」
「彩は……陸上部だったのか」
「怪我しちゃってから、そういうことは話さないもんね。小学校の頃は、男子に混じって校庭でボール遊びしたり、本当に運動が好きなんだよ彩は。だから、車椅子になっちゃったのも、あんまり受け入れられてないんだと思う」
「……知らなかったな」
そんな話を聞いてやっと、もっとちゃんと話を聞いておけばよかったと丈晴は思う。そうすれば、ひょっとするとあの雨の日の彩の表情の意味を、髪の毛ほどは理解できたかもしれない。
「でも高校でね、平家くんを見つけたの」
「僕を?」
「『事故にあった現実を受け入れられない自分よりもずっと、不幸そうな顔をしてい生きているクラスメイト』を」
「ひどい言いようだな」
「でも、それから彩は明るくなったなぁ。ねぇ、丈晴くん。教えて欲しいな。月魄さんと付き合ってるって、本当?」
「ああ、そういう噂が流れてるよな。あれは、否定するのが面倒臭いから強く否定していないだけで、本当にただの噂だよ」
「キ、キスとかしてない⁉︎」
「してないよ」
「ふ、ふーん」
なんだか嬉しそうな凪は、相変わらず善良な緑の綿菓子を纏いながら丈晴の横を歩いていた。その緑の綿菓子は、クラスメイトの恋バナには似つかわしく無い気がした。
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