第6.5話


「大変だなぁ、うん」

「どうしたの?アル」

 ぽつりとつぶやいた独り言に、シオンが不思議そうな顔でこちらを覗き込んできている。

 この俺の妹(設定)は、あの二人がなんであんなへたくそな演技で話しかけてきたかは全く分かっていないだろう。まだ中学生じゃ、同級生の彼氏(推定)と会話するなんてなったらああなってしまうのも無理はない。

 駅に着いた時から、尾行されている気配はあったので多少警戒はしていたのだが、あんなかわいい追跡者なんてこの国は本当に平和だ。叶うなら彼らが純朴なままで生活できるような環境を維持し続けてあげたいものだ。

「……何でもない。拠点に着いたら、現状報告会な。今回の『氷結鬼』とやらをちゃっちゃと捕まえて、島に帰りたいからな」

「わかった。とはいってもあんまり進捗はないんだけれど」

「それはそれで平和でいいんじゃないか。……それよりも、なんで制服着てるんですか?シオンさん」

 今日は土曜日、学校はないはずで制服を着ている必要はないはずだ。こっちに来る前に私服も持ってきてるのは確認しているので、制服なのはあえてだろう。けど、なんでそうしたかが全く分からなかった。

 シオンは俺の質問の意図が分からなかったのか、かわいく小首をかしげている。ああもう、ほんと顔がいいな、この娘。これがほんとに妹だったら俺は確実にシスコンになってただろう。妹じゃなくて助かった。……なにが?

「来る前に、シリウスがアルは制服が好きだから、合流するときは着といたほうがいいって言っていたのだけれど……好きじゃなかった?」

 あの犬野郎の差し金か!うーん、ナイスとしか言いようがない。次会ったら飯くらいおごってやろう。

 シオンは答えを待って不安そうな面持ちで俺の顔を見つめている。

 ここで素直な感想が言えないのは、さきほどの中学生と変わらなくなってしまう。こういう時に、気の利いた回答ができるのが、あいつらと俺の違いだ。

「いや……、よく似合ってるよ。うん」

 いや、はっず。カッコつけといて何なんだが、こういうこと言うのキャラじゃないんだよ。あーやばっ、耳あっつい。

 照れ隠しも合わせて、とりあえずシオンの頭を撫でておく。いつもおろしている髪を纏めているおかげで少し手触りは違うが、いつも通りつやつやないい髪だ。

「……アル、その、うれしいのだけど、こういうところでやられると、……ちょっと恥ずかしい」

 顔を赤くしながら、ぽしょぽしょと口にした。それが本気で恥ずかしいのだとわかってしまい、またこっちも顔が熱くなってしまう。

「ごめん。……帰るか」

「……うん」

 それから拠点までの移動は、こっぱずかしくて二人とも無言だった。


 こんな青春っぽいやり取りの裏で、あの中学生二人がまた醜い言い争いをしているなんて二人は想像する余裕もなかった。

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