第11話
「どこの誰かと思ったら、風のナルシスト野郎じゃねえか」
「君は……。半年前、あのアイドルの時以来かな。あの時の屈辱は忘れたくても忘れられないよ。君のおかげで僕が頂点に立つのが半年は遅くなったよ!」
「よかったな。今からならあの時と変わらない距離じゃねえか。今度はライブに乱入じゃなくって、主催でもすりゃあもっと近くなるかもよ」
「むきーっ!!」
なんだか敵同士とは思えないほど、仲良さげに会話している。
それにしても、会話の中でちょっと気になる言葉があった。半年前、アイドル、ライブ乱入。つまり————導き出される結論は!
「なあ、アル!そのアイドルって、まさか黒崎玲のことか!?しかもライブに乱入したのお前らだったのかよ!」
今から半年と少し前、田中(仮)に紹介されて二人でライブまで見に行ったアイドルがいた。黒崎玲、きれいな黒髪にスレンダーなボディ。田中(仮)曰く、時にキュート、時にクール、時にパッションがあふれ、その姿はプリンセスのようで、フェアリーでもあり、エンジェルかもしれない。ボーカルもダンスもビジュアルにメンタルだって最高なアイドル。それが黒崎玲。
俺もライブのDVDを借りて予習をしてからライブに臨んだのだが、そこで珍事(?)不思議なことがあった。ライブの途中、恋心と戦う女の子のことをうたった曲の中で、客席からナイフを持った人物がステージに上がった。そして気にせずに歌い続ける黒崎を守るように黒衣のナイトが現れ、戦ったのだ。乱入した二人は一番が終わったところでステージから退場したため、そういう演出かとも思ったが、田中(仮)がこの曲にはそんな演出があったことはない。おかしい。と声高に言っていたのを鮮明に覚えている。
そんなにも好きだった黒崎玲のことを田中(仮)と話すことはなくなってしまった。彼女のことを話すと、どうしても思い出してしまうのだ。————あのライブのあと彼女が亡くなったのだと。
熱狂に包まれたライブのあと、数時間後に彼女はマネージャーと一緒に乗った車が事故に遭い、そこで命を落としてしまった。もちろん俺も田中(仮)も深い悲しみに落ちた。そのこともあり、俺たちの間で彼女のことはなんとなく忌避していたのだが、まさかこんなところで名前が聞くことになるなんて、しかもあの乱入者がこの二人だったなんて、ちょっと変なテンションになってしまった。
「お、おう。あれと会ったのはそいつの護衛をしてたからだからな」
「マジで!じゃあ玲ちゃんて異能者だったのか!?すげぇー」
「おまえ、そんなキャラだったか?……というか、それよりもシオン、ここは俺が何とかするからお前はグレン連れて学校に行け」
推しのアイドルの話で、前のめりになる俺を引きはがしながら、アルがシオンに指示をする。
「わかった。けど、どうして?」
「俺がここに戻ってきたのは、学校に結界が張られてたからだ。たぶん決戦は学校になる。そいつを連れてけば、出てきてくれるだろうぜ。能力の相性的に俺があいつを相手して、お前が氷結鬼を相手した方がいいだろうし、……向こうもそのつもりみたいだしな」
アルの視線の先、先輩の周囲には先ほどまではいなかった同じ制服を着た人たちが並んでいた。空から降ってきた人数は五人くらいだったので、残りの十五人がここに集結したのだろう。みな臨戦態勢で、攻撃の指示が出るのを待っているようだ。
「じゃあ、頼んだぜ」
一言告げると、アルは一瞬で距離を詰め、いつのまにか抜いていた刀を上段から振り下ろした。甲高い金属の衝突音が響く。切りかかられた先輩も両手に隠し持っていたナイフで受け止めたみたいだ。そこまでは見えたが
「行くよ、グレン君」
柊に持ち上げられて体勢が変わったせいで、それ以上は見えなくなってしまった。そして次の瞬間、
「うわぁああああああ」
思いきりアクセルを踏み込んだみたいな急加速で柊は跳んだ。抱えられた俺は悲鳴を上げながら彼女の首元にしがみつくしかできなかった。というか、この体勢ってお姫様抱っこってやつじゃあああああああああ。
そんな思考も、吹っ飛んでいくほどの勢いで俺たちは学校へと急いだ。
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